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クラゲの骨

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 ということを、瞬時にしてと言っていいほど、早く見つけることができるようだ。
 それを本人は、特技だと言い方ではなく、
「特殊能力」
 と呼んでほしいと、ひそかに思っていた。
 特技と、特殊能力というのは、誰にでも備わっているという意味では同じであるが、特技の方は、自分で、
「伸ばそうとして意識している」
 ということであり、逆に特殊能力というのは、
「意識することなく、勝手に発動されるものだ」
 と感じるものであった。
「脳の中の能力は、普通の人間は十パーセントしか使っていない」
 と言われるが、その十パーセント以上の潜在的な力を彼女は特殊能力だと思っている。
「特技などという言葉ではなく、特殊能力であるとするならば、他にも自分の中に潜在しているものがあるはずだ」
 ということで、それを見つけていきたいと思っているのだった。
 今では、男と組んで、
「童貞喪失」
 に一役を買っているが、別に嫌いではなかった。
「これも、一種の人助けだ」
 と思ったからだ。
 お金をもらって、男性とセックスをするということよりも、よほど健全な気がしたからだ。
 実情は、詳しくは知らないが、みきから見て、お金をもらって男性とセックスをするような女性は、もちろん、お金に困ってやっている人も多いだろうが、それ以外の人は、例外なく、
「遊び感覚」
 ではないかと思っていたのだ。
 偏見だという意識はあるが、一度感じてしまうと、自分でもどうしようもなくなってしまう。

                女と男の違い

「遊び目的ということは、お金がほしいというよりも、セックスがしたいという感覚を、お金をもらうことで、自分の中でごまかしているのではないか?」
 と考えるようになった。
 偏見だとしても、みきはそう思わずにはいられないのだ。これも、みきが、
「童貞キラーである」
 ということへの言い訳のように思えたのだった。
 そういう意味では、売春をしている女の子たちのことを嫌いに思うのは筋違いなのだろうが、
「彼女たちもきっと、私のようなことをしている女性は嫌いなんだろうな」
 と感じたことで、どうしても歩み寄ることができないでいたのだ。
 みきは、童貞喪失に一役買うことを遊びだとは決して思っていない。それは、童貞喪失をさせてあげた相手から、ありがたがられるからだ。
 中には女神のように崇めてくれる人もいるし、さらには、付き合ってほしいといってくる人もいる。
 しかし、
「私はあくまでも、童貞の人の筆おろしをさせるのが目的だから」
 と言って、丁重に断っていた。
 克彦もそんな中の一人だったのだが、克彦という男性が、酒にめっぽう弱いのだが、その分、
「すぐに酔っぱらってしまうが、ほとんど飲んでもいない間に酔ってくるので、正気に戻るのも結構早い」
 ということであった。
 先輩も、
「こいつは、酒に弱いので、すぐに酔いつぶれるので、送っていくということにして、ホテルにでも連れ込めば、簡単だぞ」
 と、みきに言ったくらいだった。
 みきの方も、場数は踏んでいるので、黙ってうなずくだけだったが、その顔には笑みがこぼれていた。二人の会話は、いかにも怪しいものだったのだ。
「タクシーに乗せて、ラブホテル街まで走らせたが、運転手は何も言わなかった。これが、男子と女子が逆であれば、少しヤバいと思うのだろうが、酔いつぶれているのが、男性の方なので、興味津々ではあったが、余計な詮索をすることはできないと思うのだった。
 男性は普通の大学生に見えたが、女性の方は、まだあどけなさが残る女性で、まさか、彼女の口から、行き先をラブホテル街を指定されるなど思ってもいなかった。
 タクシーで、十分も走れば、ネオンサインが怪しい色を立てているホテル街へと入っていった。
「そういえば、昔のような、幾何学的なネオンサインというのは、いつ頃からなくなっていったんだろうか?」
 と運転手は考えていた。
 それこそ、都心部や街の玄関口であるターミナルや空港などには、幾何学的な演出が施されたネオンサインがケバケバシク輝いていたものだが、急に見なくなった。
 毎日のように、夜の街をタクシーで走らせていると、すっかり慣れっこになってしまっているので、途中で変わっていっても、ほとんど意識すらしていなかったに違いない。
 今の怪しげな光景を、
「当たり前の景色だ」
 と感じるようになっただけに、実際に変わっていったのは、かなり昔のことだったに違いないだろう。
 そして、そんな怪しげなネオンサインの中に、タクシーは消えて行ったが、ホテル街にはまだまだ人が歩いていて、時間的には、逆にまだ早いくらいなのかも知れない。
「宿泊の時間には、まだ少し早いわね」
 とは思ったが、みきも、先輩も、
「まさか、克彦がこんなに早く酔いつぶれてしまうとは思ってもみなかった」
 と感じていることだろう。
 しかし、逆に連れ込んでしまえば、あとは、彼の酔いが覚めるのを待つだけだった。
「今までの経験から、二時間もすれば、酔いも覚めるだろう」
 と、みきは考えていた。
 ベッドに倒れるように崩れ落ちた克彦を見ていると、
「私は、いつも、この表情を見ているのが、意外と好きなのよね」
 と感じていた。
 もちろん、一番の感動は、男と一つになった時なのだろうが、男性がみきを女神のように崇めたいという気持ちになるのも分かる気がしたのは、繋がった瞬間に、感じることができるからだった。
 いつもいつも同じパターンを繰り返していると、たまに、
「少し違った男性を見てみたい気がするわ」
 と思うようになっていたが、危険なことだけは避けなければいけないので、あまり奇抜な考えを起こして、興奮に身を任せて行動するのは、避けなければならなかった。
 だが、酔いつぶれている時の顔を見ていると、
「どんな夢を見ているんだろう?」
 と思うのだ。
 皆、自分が酒に弱いということは分かっているようなので、普段はそんなに酔いつぶれることはない。
 だが、普段は参加することもない、女性がいる飲み会。合コンというものに自分の身を置いているというその状況に最初から酔っていたのだろう。
 そういう意味で、酔いつぶれたのは、アルコールによるものだけではなく、女性のフェロモンが彼の酔いに影響を及ぼしたのだといえるのではないだろうか。
 克彦も同じように、フェロモンにやられていた。その中でも、みきがつけている香水にやられたといってもいい。その香りは、昔、小さい頃に感じた香りだった。
「そうだ、母親がしていた香水の香りだ」
 と、感じたのは、酔いつぶれている時であっただろうか。
 それを意識できるようになると、酔いは次第に覚めてくるのが感じられた。
 酔いは覚めてきたが、身体を自由に動かせるわけでもなかった。むしろ、金縛りのようなものに遭ってしまったのではないかと思うほどに、余計に身体が動かなかった。
「意識があるのに、身体が動かない」
 という状況は、何かの恐怖を感じているからなのかも知れない。
 克彦は、高所恐怖症と、閉所恐怖症の二つを併用して持っていた。
作品名:クラゲの骨 作家名:森本晃次