クラゲの骨
今度はまた隣村に話を再度聞きに行って、そこで、隣村から聞かされた話を聞くと、
「ああ、それはこちらでも、そのお唯という女性のウワサは残っています。お唯は、元々、隣の村の長から送り込まれた密偵だったというんです。密偵だったのだが、男の純粋さと暖かさに惹かれて、結婚することになった。それはそれは、幸せな夫婦生活だったようです。でも、いいことはそんなには続きませんよね。子供の問題で、家を追い出されたと聞きました。それは、裏切ったバツだという風に、ここでは伝わってますね」
という話を聞いて。
「そうなんですね。それこそ、昔話によくある。いうことを聞かなかったから、戒めや報復のようなものであるといえるのかも知れませんね」
と言った、
「我々としては、その女性がこの村の存在を滅亡に追い込んだ何かを持っているような気がして仕方がないんですよ。ただ、それでも、話としては残っている、ある家には、掛け軸としても残っていると言います。それだけ伝説というの、辻褄を合わせることが難しく、かなりの時間がかかって、やっと解読することになるんですね」
というのだった。
伝説がまたしても、少し違っているではないか。
「微妙に違うということは、二つを合わせれば、事実になるのではないか?」
ということも考えられる。
そもそも、隣村同士が、
「実は隣村に、伝説が伝わっているということを聞いたことがあって……」
というところから、同じように話が始まっていき、実際に行きつくところは同じような話なのだが、実際には、どの途中がまったく違っているのだ。
そう思うと、伝説として伝わっている話というのは、何やら
「幻の村」
というものがキーワードとなっていることで、そのキーワードを解き明かすことで、見えていなかったものが見えてくるのではないだろうか。
「ところでお唯の子孫と言われる里子に出された女の子というのは、どうなったんでしょうね?」
と聞くと、
「その話ですが、今でもどこかにいるという話らしいです。本人はお唯の子孫だということを意識はしているようなんですが、それを周りの人に知られると、村八分にされる可能性があるということで、誰にも言えずに、心の中にしまい込んでいるということなんだろうです。ただ、これも話というだけで、どこまでが本当なのか分かりません。この村に残る伝説として、口伝として残っています」
と神妙な顔つきをして、村人は先を続けた。
「その子はかなりの、子だくさんのようで、里子に出された子供が生んだのが、八人であり、そのすべてが女の子だったと言います。その生まれた子供も、子供が生まれる時になると、またしても、皆生まれたのが女の子だったということなんです。だから、お唯の子孫と呼ばれるのは、数十人はいることになるんでしょうが、皆、女性だというところが皮肉なところですよね?」
というのだった。
「というと?」
「だって、お唯は生んだのが女の子だということで、子供を里子に出され、最後には理不尽さからなのか、悔しさからなのか、自殺を企てたということになるのだから、そもそも、女性が生まれる可能性が高かったということで、こればっかりは、神様でもない限り、どうしようもないですよね」
と、村人は言った。
「元々は、その村というのは、男子でなければ、村に残れないということだったわけでしょう? 下手な言い方をすれば、女性は子供を産むだけという形ですよね?」
と県の人がいうと、
「そうなんですよ。普通は逆なんですけどね。女性ばかりがいて、男性がいないので、子供を産ませる種馬として、どこからか連れてくるという話を聞いたことはありましたが、本当であれば、明治のこの時代には、そんな扱い方を男子にしてはいけないんでしょうが、子孫を残すためということであれば、それも致し方がないということで、実際に行われている村はあるそうです。でに、女性ばかりの村が存在しているということを聞いたこともないし、どういうことなんでしょうね?」
ともう一人の件の人間がそういった。
「そうでもないですよ。女ばかりの村というのも実際に存在していて、それなりに伝説も残っているようです」
と、村人は言った。
相沢ちひろの育った村のことであるが、その当時から、ウワサとしてはあったのだろう。
日本にこんな変な村が存在するというのもおかしなもので、しかも、意外と近いところにある、
それを考えると、
「それぞれに、その源流は近いところにあるのではないだろうか?」
という風に考えられなくもない。
かたや、女性ばかりの土地、そしてかたや、男性ばかりの土地と、まったく正反対であるが、共通点もないわけではないだろう。
まず何と言っても、そんなおかしな村というのが、世間には伝説のような形で、
「知る人ぞ知る」
という程度であったという点。
そして、婿に入ったり、嫁に行ったりした人が、子供を作るというだけの意味で、よそ者を受け入れるという点。
さらには、それらの村が、政府の手によって、抹殺されたかのように、地図上から消されてしまったという点である。
明治末期には、お唯のいた、
「女だけの村」
というのは、本当に地図上でけではなく、この地球上から消えていた。
どこかの村に吸収されてしまったのだろうが、イメージとしては、跡形もなく消え去っているといってもいいだろう。
こういう村は、少しでも特徴が消えていたら。存在価値がないといってもいいだろう。
では、男性ばかりの土地という、相沢ちひろの村はどうなのだろう?
女だけの村は明らかに明治政府によって、存在を抹殺されたところで、女性ばかりがいた村というのは、自然と存在が消えてしまったのであろう。
時代が進んできて、戦争前くらいの世間が動乱に満ちていた頃に発表された、探偵小説に、似たようなシチュエーションがあり、少し怖かった。
その話というのは、
「ある小説家が、ある妄想に取りつかれたかのように、小説を発表すると、まわりの人や、文芸評論家の人たちから、下劣な小説であるなどと、酷評を受けた。それに反発した小説家は、田舎に籠ってしまい、表に出てくることはなくなっていた。しかし、その男はひそかに自分を嘲笑した連中に対して復讐を考えていたのだ。美少年を作り上げて、彼らを誘惑し、そして、気も狂わんばかりにさせてやろうという計画だった。そのために、頭の弱い男女をどこかからさらってきて、監禁し、愛し合うように仕向けた。女は妊娠し、玉のような男の子を生んで、その子を復讐の兵器にしようと企てたのだ」
これが発端である。。
「そこで、子供が一歳になるくらいの頃には、親二人をまたそれぞれ、どこかに捨てに行ったのだ。もちろん、どこに監禁されていたのかなど分からないようにである。結果、その子は復讐の道具として使われるようになる」
という話なのだが、この話の中にある、