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クラゲの骨

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 というものこそ、都会の文明が発達しないと出てくるものではないと思うのだが、明治時代は、まだまだ、田舎のいわゆる都市伝説的なものが、残っていたのだった。
「地図に載っていない村」
 というのは、この場所だけではなく、全国にはいくつも存在した。
「じゃあ、その土地の管轄はどこなのか?」
 ということになるのだろうが、地図で見ると、気にしなければ、そのあたりをつかさどっている都道府県のものであることになる。
(ちなみに、明治末期には、東京都は東京府であったため、都道府県ではなく、道府県だったのだが)
 しかし、そんな土地であっても、境界線が赤く書かれていた。そして、その内部の地名は何も書かれていない。書いてはいけない部分だということであろう。
 書いてはいけないというよりも、立ち入れないだけに、書けない土地なのだ、事前調査も何もできず。村の名前もハッキリとは知らない。きっと江戸時代から、その村は特別な村だったのだろう。
 そもそも、県にも、中央政府にも、その土地の資料は一切残されていない。だから、今回聞いた伝説についても、誰からも聞いたことのないものだった。
「これでは、話にならないな」
 と思った県の職員は、今度は、また隣村に話を聞いてみることにした。
「ああ、その伝説なら、隣村の話なんじゃないか?」
 と言われた、わざとどこの村のことなのかということを明かさずに聞いてみたのだが、その方が、より正確な情報を得ることができるからだと感じたからだった。
「隣村の話として、その土地が細分化されているというところと、一つだけ、毎年豊作だという不思議なところがあったという話を聞かされたんだが」
 というと、
「その村では、やってきた奥さんに子供が生まれて、里子に出されたことを苦にして、奥さんが自殺したというものなんだけど、どうやら、その村は、女の子が生まれると、里子に出される風習があるというんだ」
 というではないか。
「じゃあ、跡取りの問題などで?」
 と聞かれたが、
「それは違うと思う。わしらのような百姓に、跡取りもくそもないからな。どうやら、村の女性で、生粋の村人というのがいてはいけないということだったらしい」
 というのだ。
 先ほどの村の話と、酷似していて、微妙に違っていることから、二つを合わせて辻褄を合わせると、それが事実になるんじゃないかって思うのだった。
 一つ気になったのは、
「最初の村で聞いた時、隣村の伝説と言って聞いた話と、今度は反対の村で聞いた時、酷似した部妙に違う話を、隣村の話といって聞かされた」
 ということが、どうにも腑に落ちないことであったのだ。
 どちらもが、
「隣の村の話」
 ということで話が伝わっているということは、それぞれの村に、偶然、隣村という都市伝説が存在したということなのか。
 それであれば、話としては辻褄は遭っているが、そうなると、酷似はしているが、肝心なところはあるで割符のように、片方に分散して残っているというのもおかしな話ではないか。
 それを思うと、
「地図上に存在していない村」
 というものの存在に信憑性がもてるし、かと言って、微妙に違っているのは、一緒にできない何かが存在しているからなのかも知れない。
 その話を誰から聞いたのか、県の中で、不思議に思っている人がいたのだ。
 その人は、大学教授で、県が郷土の調査を行う時に、いつも協力を願っている人で、彼がいうには、
「都市伝説ではあるが、何か、本当のことが多く含まれた伝説のような気がする」
 というのであった。
 そんな村であったが、実際に存在した小さな村が、今では一つの大きな村になっていた。その村で話を聞くと、
「確かに、昔は、狭い範囲で一つの村を形成していたということだったが、そこは、中央の威光が含まれていたというのですよ。同じ村でも狭い範囲で、土地の作物が違っているという。一つの村にしてしまうと、不公平が出るということと、政府の方も年貢の取り立てが難しいということで、江戸時代までは、狭い範囲での村とされていたんですよ。特に秀吉による太閤検地では、石高制にするための検地だっただけに、コメの取れる量や、コメ以外の作物に関しては、国交厳しくしていたんだそうです、江戸時代まで似たような考えだったことで、結局、一つの村を細分化することにしたんだそうです」
 というのだった。
「じゃあ、その中のいつも豊作だったという村は、尊属したんですか?」
 と言われ、
「いいえ、明治になって。土地改革が行われた時、ここは、やはり細分化しないとどうしようもないということで、そのまま行ったんですが、うまくいかないということで、この豊作が続くところだけ、地図から消えることになったんです。でも、それから、パッタリと豊作ではなくなったようです。それを狙っていた政府だったが、うまくいかずに、腹いせなのか、地図から抹殺されてことになったんです。そのことから不作続きの土地になったようで、結局、その土地がどこにあったんかもわからなくなり、「地図から消してしまったことで、本当に村が一つ消滅してしまった」ということになったんです。だから、この村が今では伝説になってしまい、もし復活してくるとすれば、それこそ、オカルトの世界だって話もしていたんですよ」
 というではないか。
「幻の村」
 ということでしょうか?
 というと、
「幻というのか、政府が地図から消したので、本当に消えたのであれば、幻ということでしょうね」
 一つの時代が終末を迎え、新たな時代が芽生えてくると、幻や、幻覚が見えたりするものだ。魑魅魍魎たる時代がやってきたのか、それもこれも、黒船来航がきっかけだったのだ。
「ただ、一つ気になることがありまして」
 と、伝説について話をしてくれた人が思い出したようにいう。
「それはどういうことですか?」
 と聞くと、
「その村にお嫁に来た、お唯という娘がいたということですが、結局、最後は自殺をしたという話になっているんですが、その前に、一人の子供を海落としているという話なんです」
 というと、
「それは男ですか、女ですか?」
 と聞くと、
「それは分かりませんが、彼女の生んだ子供にはいろいろな伝説があるようで、この村の先祖だとか、今でもその子供は人知れず、どこかで生まれ変わるという伝説になっている」
 という。
「それは、生まれ変わりというか、輪廻転生というか、自殺をした彼女が生まれ変わるというたぐいのものでしょうか?」
 と聞くと、
「そういう話もあります。違う話も存在し、どこまでは本当の言い伝えなのか分からなくなっています。きっと、隣の村と話をすり合わせれば。分かってくるものなのかも知れないですね」
 というではないか。
「じゃあ、この村では、隣村に残っているという伝説について話は聞いていて、そのうえで、気になる話だと思っているということでしょうか?」
 と聞くと、
「ええ、そうです」
 と言って、真剣なまなざしを向けていた。
 それを聞いた県の人間は、
「この村だけではなく、さらに反対側の村の伝説も聞いてみないといけないな」
 と感じているのだった。
作品名:クラゲの骨 作家名:森本晃次