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短編集97(過去作品)

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 他人事だとは思っていなかった。自分の目で敬介を見ていたのだ。もしあれが他人の目として見ていたら、きっと夢で違和感を感じ、島田が目の前に座っているそのままのシチュエーションを見ていたと思うからだ。根拠があるわけではないが、充実感のある夢だったことだけは事実だった。
 あの時、女装をしている敬介を見て、なぜか安心感があった。何となく分かっていただけに、ぼやけた思いから解放されたという思いがあったのだろう。
――ミイラ取りがミイラかしら――
 島田にはそれなりの下心があったに違いない。敬介に愛想をつかせることができれば、由美子の目が島田に向くと考えていたことは分かっていた。
 だが、それも取り越し苦労、もう一人の由美子が出てくればそういう展開もあっただろうが、それほど由美子も自分が愚かではないことを自覚していた。
 敬介は、小さい頃に知り合った桜さんの中に母親を見ていた。だが、本当に見ていたのは、もう一人の自分だったのかも知れない。
――自分が女であれば、どんな感じなんだろう――
 敬介が考えていたことが、今の由美子には手に取るように分かってきた。
 島田がこの光景を由美子に見せることで、敬介に対して不信感を抱かせ、いずれ自分のものにしようと企てていることも分かっていた。
 だが、由美子は今島田に感謝している。今まで信頼しているつもりでもどこか分からなかった敬介の気持ち、そして、もう一人の敬介が彼の中で存在することに気付いたおかげで、由美子自身にも自分の中にもう一人の自分がいることに気付かせてくれたからだ。
 苛められていた経験があり、苛められている人の情けなさを知っている由美子だからこそ分かるのではないだろうか。
 今敬介の横に一人の女が一緒に歩いているのが見える。楽しそうに歩いているが、その光景は由美子にしか見えていない。
 だが、その横で目をカッと見開いてブルブル震えながら同じ光景を見ている島田がいた。島田にはどのように映っているか、由美子には分かるような気がした。
 一人で歩いている女装している敬介は、横を見ながら誰もいない相手に楽しそうに話しかけている。だが、足元を見ると、そこには確かに二人の影が伸びている。まるで、抱き合うように……。

                (  完  )

作品名:短編集97(過去作品) 作家名:森本晃次