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呪縛の緊急避難

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 時計を見ると午後三時くらいである。一日の最高気温の時間を少し過ぎたくらいであろう。そのせいもあってから、クーラーは利いているのだが、それほど涼しいとは思えないという、我慢の時間帯と言ってもよかった。
 その日は土曜日で会社が休みだったので、最初は、
「どこかに行こうか?」
 と真美を誘ったが、
「私はいいわ」
 と、簡単に拒否られた。
 ただ、その時は真美が男とのデートだというわけではないことは分かっていた。なぜなら、もしデートであれば、もっとはしゃぐように断るはずだからである。ああ見えても真美は自分で意識しているのかどうなのか、すぐに態度に出やすいという分かりやすい性格であった。
 思わず冷蔵庫も開けてみた。
「何これ、何もないじゃない」
 思わずビックリした。
 確かに家具関係は余計なものを置かない真美だったが、食料関係などは、結構備蓄していることが多かった。
 普通の女の子と同じで、あまり食べる方ではないのだが、
「食料だけはいつ困るか分からないので、いつも余分に蓄えているのよ」
 と言っていた。
 もちろん、そんなことは分かっているのだが、もし食べきれなかった場合のことを聞いてみた。
「賞味期限切れすれば?」
 と聞くと、
「その時は捨てるだけよ」
 といけしゃあしゃあと言った。
 真美の性格とすれば、家具や生活用品などは、別になくても困ることはないので、最初からなくてもいい。でも、食料品は生活必需品なので、もしもの時があれば怖いというのだ。
 だが、その理由として、
「だって、生活用品は一つが高いけど、食料品は消耗品だから、他水じゃない、だから、もったいないとかいう理由とは少し違うのよ」
 というものだった。 
なるほど、現実的な話をいつもしている真美らしいではないか。
 そう思うと、あいりはいつも冷蔵庫にしても、キッチンの床にある章句品格納庫にしても、それなりに備蓄があるものだと思っていたのだ。
 確かに今までに真美の部屋の冷蔵庫を覗いたことがなかったので、初めて見る冷蔵庫であったが、思わず声にだして驚いたのも無理のないことだろう。
 あいりは、冷蔵庫を開いたのは、本能的に覗いてみたのだと思ったが、本当は違っていた。
「この機会に見てみたい」
 という思いが一番にあったのは事実だった、
 いわゆる、
「鬼の居ぬ間に」
 という心境で、実に不謹慎であったが、この冷蔵庫を覗いてみたことは、彼女の性格を本当に知るうえで必要だったのは、間違いのないことでもあった。
 リビング・キッチンは一通り見て、そこにいないのが分かると、後はトイレか、洗面所、そしてバスルームである。
 トイレも洗面所もバスルームも玄関からの通路の途中にあったはずだ。そう、さっき脱ぎ捨てられていたブラウスがあったあたりである。
 まず、トイレに入ってみたが、そこにはいなかった。ただ、一つだけ気になったことがあった。それは便座が上がっていたことである。
 女性一人暮らしで便座が上がっているというのは、これ以上不自然なことはない。最後に使ったのが男性だという証拠であろう。そう思うと、真美に誰か付き合っている人がいるというウワサは本当だったという証拠になりはしないだろうか。これまで確認したくてもできなかった思いをこんなことでしるなんてと、あいりは何とも言えない気持ち悪さを感じた。
 嫌な気分を抱いたまま最後の洗面所をバスルームを開けてみたが、まずスライドドアを開けると、正面には洗濯機が置いてあり、左側が洗面所になっている。さらにその奥にM字型に開く扉があり、そこがバスルームになっていた。
 すぐに目についた脱衣かごには、衣服は置いていなかった。ただ、気になるのはシャワーの音が聞こえていることだった。
 水が勢いよく流れているわりには、その音はまったく表に漏れてこなかった。テレビの音が大きすぎるせいだろうか。ただ、ここまで来ると、あいりは嫌な予感しかしてこなかった。
 急いでバスルームに入ると、
「わっ」
 と思わず口を手で塞いでしまった。
―ーどうして人は、特に女性は、驚愕の光景を見ると、口を塞ごうとするのだろう?
 と、急に思ったが、それは目の前の光景を打ち消したいという本能のような気持ちによるものなのかも知れない。
 鬱咽になって洗面台にもたれている一人の女性がいた。倒れているわけではなく、持たれているのだ。洗面台に両腕を下げて、燃えにもたれる形になっている。下着姿であることは、通路にブラウスがあったことで、想像もつぃていた。しかし、あらわな上半身にシュミーズが絡みついていて、真っ白とまでは言えない素肌を濃紺の下着が隠している姿は、妖艶さを感じさせるというよりもそれだけで寒気が襲ってきた。
 きっと男性が見ても、妖艶さよりも君の悪さが襲ってくるに違いない。シャワーが容赦なく彼女の肩まで伸びている髪を万遍なく濡らし、顔は水が溜まっていない浴槽に倒れこんでいた。
 なぜ水が溜まっていないのかが分かったのかというと、水が浴槽からS触れていなかったからだ、ずっとシャワーが降り注いでいるであれば、すでに浴槽は満水になっていて。それ以上の水は排水溝に流れているのが必至だったからである。
 水が溢れていないのが分かると、その浴槽がどうなっているのか気になってきた。八キロ言って、その時にはすでに浴槽の中がどうなっているのかということは想像がついていた。それを固唾を飲んでみているという光景は、それだけ自分がこの光景を、
「まるで夢を見ているようだ」
 と感じたい一心であることが分かったからだ。
 本当であれば抱き起こしてみるくらいしなければいけないのだろうが、それができなかったのはなぜだろう?
 もし死んでいるのであれば、現状保存が大切だなどという悠長な思いを抱いていたとすれば、いくら信じがたいことであるとしても、あまりにも常軌を逸した精神状態であるということは分かり切ったことであろう。
 それでも。それくらい放心状態だった時間があっただろうか。数秒にしか感じないが、数分だったような気もする。まず、何をしていいのかが分からなかった。
 まずは、覗き込んでみて、そこがどんな様子になっているのかを確かめなければならない。
 覗き込んでみると、果たしてそこに見えたものは、透明なお湯ではなかった。真っ赤な色を感じたが、決して想像していなかったものではなかった。そう思うと、鉄分の混じった嫌な臭いがした。さらに。奇妙な既視感も感じていて。
「前にどこかで」
 と思ったが。もうそこまで考えると、今度は勝手に身体の方が動いていた。
 浴槽の中を覗き込むとそこに見えたのは、想像を絶する光景だった。
 浴槽には水は溜まっていなかったが。真っ赤な色はまるで血液のごとく、排水溝に流れ込んでいる。水が交っているのだから、色は薄れるものだと思いがちだが、深紅の鮮血はまるで泥のようなゲル状をしえしていて、このまま流れていくと、排水溝に詰まってしまうのではないかと思えるほどの色を呈していた。
 ダランと垂れた手首が、すでに生気を帯びていないように見えたので、すでに死んでいるのかと思い見つめていると微妙に動いた気がした。
「水圧によるものかしら?」
作品名:呪縛の緊急避難 作家名:森本晃次