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呪縛の緊急避難

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 つまり、今自分が本当は過去の記憶を失っていて。自分が持っている記憶はどかかから借りてきたようなものであり、いつわりのものであったとすれば、他の記憶を思い出した瞬間、今の記憶は消えてしまい、また迷走するのではないかと考えたからだ。
 この思いは、自分の中で、
「記憶を失ったことがある」
 と自覚している人にしか考えつくものではない。
「あなたは、記憶喪失だったのよ」
 と他人から言われて、それで自覚するという他力本願的な記憶の回復であれば、考えつくこととできないとあいりは思うのだった。
 あいりはその日、テレビを見ている夢を見ていた。そのテレビでは、ピエロが何も言わずにこっちを見ている。そして、気が付けば眠ってしまうという夢だった。
 目が覚めたあいりは、その夢が怖くて怖くて仕方がなかった。今までに見た夢で一番怖かった夢というと、
「もう一人の自分」
 が出てくる夢だった。
「では、テレビに映っていたあのピエロを、私は自分だと思っていたということであろうか?」
 と感じた。
 そう思うと、今度は、自分がピエロになり、画面の向こうからピエロを見つめている自分と目が合って。思わず目を背けようとするが、身体が緊張して動かすことができない。幸いなことにピエロの扮装に顔の化粧が、あいりのそんな心境をまるで相手に悟らせることはなかった。
「あの恐ろしく見えるピロだけれど、実際には相手を怖がっているので、あんな扮装や化粧をしているということなのかしら?」
 とあいりは感じた。
 あの滑稽な行動も、そう思えば分かる気がする。相手に自分の弱さを悟らせないようにするための一つもパフォーマンスだからである。
「それにしても、誰がピエロなんてものを考えたのかしら?」
 ピエロというものを考えた人が、実は一番自分に自信を持てずに、怖がっていたことで、ピエロという、
「もう一人の自分」
 を創造したのではないかと思うのだった。
 もう一人の自分を見る夢が一番怖いという意識を持っていることで、夢以外でもう一人の自分を意識したことがあったような気がしたが、それが記憶を失っていると思われたその間の記憶であった。
 たぶん、記憶を失っていた時のあいりは、神的な発想を持っていたのではないだろうか。他の人が、あるいは、普段の自分が持つことのできない発想であり、奇抜という言葉を超越しているような気がする。
 確かに普段から小説を書いたりしていると、普段から、
「他の人にはない発想を絶えず抱いていたい」
 という願望があり、自分の中でそんな発想をたくさん抱いていたとは思うのだが、普段の中でそれを発揮することはできなかった。
 だが、自分では抱いていると思っていた発想がどこへ行ってしまったのか不思議だったが、記憶を失っている間の自分に蓄積されていたのだと思うと、その発想をいつ抱けばいいのかと思ってしまう。普段の自分がどうして抱くことができないのかを考えた時、
「きっと記憶を失っている時の自分を、認めない自分がいることで、表に出すことができないようになっているのではないか?」
 と思えた。
「人は脳の十パーセントも使っていない」
 というではないか。
 その残りを実は使えるだけのキャパを持っているのが、記憶を失っていると思っている時であれば、そして、その時を自分で認めることができれば、その思いは一気に成就するのではないかと思うのだった。
「だが、なぜ記憶を失っている時期を自覚できないのだろう?」
 という思うと、一つの理由として、
「ドッペルゲンガー」
 という発想が考えられるのではないかと思った。
 もう一人の自分がこの世に存在することで、その存在を知ってしまうと、死んでしまうという都市伝説がある。
 あくまで自分の身体から離れているところを、自分もしくは他人が目撃することで発覚するものなのだが、そのために死んでしまうというのは、納得のいくことではない。
 そのため、ドッペルゲンガーに遭わないようにするにはどうすればいいかと思うと、無意識に、さりげなく、
「意識しないようにすること」
 という思いを抱くことで、何とか頭の中から、
「もう一人の自分」
 を打ち消そうという気持ちになる。
 それが力となって、もう一人の自分を打ち消そうとすると、思い余って、記憶すら消してしまう危険性があることに、普通の人は気付かない。
 もちろん、ドッペルゲンガーを気にするということを、無意識の意識で消すというのは、実に難しいことだ。ドッペルゲンガーという言葉を意識したということすら消してしまわないといけないからだ。ここまで協力に意識から消さなければいけないことを消そうとすれば、記憶が消えたとしても無理もないことだろう。
 しかし、記憶が消えてしまったとしても、封印していた記憶が蘇らせることで、ここも無意識に記憶が繋がるのだ。封印していただけで、実際にウソの記憶ではない。
「あいつ、最近、なんか変だな」
 という感情であったり。
「あんなやつだったか?」
 と急にまわりに思わせたりするのは、きっと、従来の記憶が封印していた記憶にとって代わられたからだろう。そして、その封印していた意識もそのうちに元の記憶にとってかわられる。そんなことは一過性の記憶喪失としてその人に起こってしまうことになるのだが、それは意識の中にないので、誰も気づかない。
 まさか、記憶を潜在意識がコントロールしているなど、思ってもみないからだった。
 この発想はあまりにも奇抜であるが、考えられない発想ではない。
「ひょっとすると、封印していた記憶と、従来の記憶が定期的に入れ替わっているということだってあるかも知れない」
 という思いを抱くと、そこに何か類似の感情を思い出すのではないだろうか。
――そう、それこそ、躁鬱症ではないだろうか――
 定期的に繰り返すことの代名詞とも言える躁鬱症と、記憶の循環とは、どこか似たものがあるのではないかと、あいりは思っている。

                二つの自殺未遂

 前日に見た夢を思い出してみると、そこで姉が何を言いたかったのか、なんとか思い出そうとした。
 確かあの頃姉には付き合ってる人がいると言っていたような気がする。その人は確か年下だったと言っていた。冗談かも知れないが、
「あの子、ちょっとかわいいから女の子によくモテるのよね。そこが気になるところだわね」
 と言って笑っていたっけ。
 さらに、お姉ちゃんがちょうどあの頃、交通事故に遭ったのも覚えている。確か急に道に飛び出したとかで、普段冷静なお姉ちゃんには考えられないことだった。
 お姉ちゃんは、高校の頃から何か物語を作るのが好きだったので、大学では映像サークルに入って、シナリオを書いたりしていたっけ。そんなものを書いていたのかハッキリは知らないけど、彼氏が褒めてくれたって、悦んでいた。
 年下の彼氏は三つくらい年下だと言っていた。大学二年生の頃に自殺未遂した姉より三つくらい下だったとすれば、高校三年生くらいだっただろうか。大人と言えば大人かも知れないが、まだまだ子供、あいりがその彼のことをほとんど知らないということは、姉の見舞いにも来なかったのだろう。
作品名:呪縛の緊急避難 作家名:森本晃次