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天才少女の巡り合わせ

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 それでも警察官になるという夢だけは持ち続けていて、高校卒業後、警察学校に入学し、卒業とともに巡査を拝命、そのまま巡査として、綾子の街にある交番勤務とあっていた。
 リアルな発想からなのか、武彦は昇進試験をほとんど考えていなかった。それは別に巡査のままでいいという思いというよりも、巡査の立場からもう少し見てみたいという思いがあったからだ、
 街のお巡りさんという印象は決して悪いものではなかった。交番というまるで仮の建物のような場所で、市民の人たちと接することが貴重な体験にもなるだろうし、今後歩んでいくうえで決して忘れてはいけない時間になるだろうと思っていた。
 その頃には、元々あった勧善懲悪という考えは少し心の奥に閉まっていたが、綾子は巡査の中にある心を読むくらい簡単なことだった。それは綾子だけに限らず、誰にでもできたことかも知れない。それだけ武彦は単純で、思っていることが顔に出やすいタイプだった。
 まさに刑事ドラマなどに出てくる、
「街のお巡りさん」
 そのものというべきであろうか。
 そんな武彦を綾子が好きになったのも無理のないことかも知れない、綾子にとって、今の自分に必要な人は、
「信頼できる相手」
 だったのだ。
 それも中途半端な信頼ではダメだった。いくら信頼できると言っても、裏表のある人はダメだった。しっかりすべてが見えていないと安心して信頼することができない。裏表がある人に限って、裏を必死に隠そうとするのだが、隠そうとすればするほど、見る人が見れば、すぐにボロが出てしまう。
 武彦のように、隠そうとしているわけではなく、単純な人がいいのだ、裏表がないというよりも、自分に素直な人、そこに綾子は信頼を感じるのだ、あの小学生の頃に自分のことをウソつき呼ばわりした連中はそのほとんどが裏表を持っていて、その裏の部分を隠そうという意識が、綾子をウソつき呼ばわりすることで、正当化しようと企んでいたのかも知れない。
 綾子が思ったのは、
「この人だったら、他の人誰もが笑って何も信じようとしないことであっても、私のいうことであれば信用してくれるかも知れない」
 ということである。
 まわりからあまり信用されることのないと思っている綾子は、今はほとんど人と会話もしていない。ただ、自分で意識していなくても予知能力は働くため、本来であれば、知ってしまった以上、教えてあげないといけないこともあるのだが、下手に話をしてバカにされるのも嫌だったし、さらにバカにされるのをよしとしたとしても、当たってしまうのだから、そのことでまわりから怖がられるのも嫌だった。ましてや、これがウワサになって、また小学生の頃のように話題になどなってしまえば、まさに本末転倒。なんのために今まで黙ってきたのか、分かりはしない。
 そんなことを考えていると、本当は誰でもいいから、心の底から余計なことを考えずに話ができる相手がほしいと思った。この人になら何を話しても自分の損得に関係を及ぼさないそんな相手、まるで肉親のような、例えば、両親のような、そしておばあちゃんのような、そして、兄弟のようなそんな人たちである。
 武彦はお兄ちゃんと呼ぶにはふさわしい人であった。つい、いつものくせで、武彦の気持ちを探ってみたが、裏に当たる部分が見えてこない。こんなことは今までになかったことだ。
 綾子は知らなかったが、自分が心を読んで、その気持ちを読み込むことができない場合、それは相手も自分と同じような考え方を持っているで、本当は分かっているのだが、自分と同じものを写し出しているので、その比較ができないため、まるで自分には見えない、あるいは本当に相手にその部分がないのではないかと思うのであった。
 綾子は、他の人よりも少し優れた能力を持っているというだけで、別に特別な人間であるわけではない。あくまでも普通の女の子なのだ。そのことは本当は一番強く自分が持っていなければいけないはずなのに、そう感じることができないのは、綾子にとって可哀そうなところであり、まだ大人になり切れていない部分なのではないだろうか。
 ただ、綾子は子供の頃に、まわりからの誹謗中傷を受けたことで、大人の世界の知らなくてもいい部分を小学生というまだ子供の間に知ってしまい、大人になるということを怖がるようになった。だから、大人になることを決していいことだとは思っていないのである。

               詐欺グループ

 初めて巡査になってすぐの頃だっただるうか。ちょうどその頃、交通事故があった。犯人はその場から逃走し、いわゆるひき逃げ事故だったのだ、轢かれた人はそのまま死亡してしまった。轢かれた時は虫に息ではあったが、早急な手当てがあれば、死なずに済んだかも知れないという事故であった。
 いわゆる救援義務を放棄したというものである。しかもそれで死亡したというのだから、下手をすれば、殺人罪が成立するかも知れない事案でもある。
 ただ、殺人罪が成立しないとしても、人を殺してしまったという事実には変わりはない。警察は犯人を許すまじとして、捜索を行っていた。事故現場やその付近での目撃情報を捜査したり、ポスターを貼って、情報を広く求めようとしていた。
 しかし、一向に情報が得られるわけでもない。もちろん、目撃者などがいれば、その人が救急車を呼ぶなどできたはずである。それができずに被害者が亡くなってしまったということは、目撃者はいなかったということの証明でもある。
 もし、その場で目撃者がいたとしても、その人が果たして名乗りであるであろうか?
 その方が可能性としては極薄ではないだろうか。なぜなら、目撃者として名乗り出たりなどしたら、自分が事件を目撃し、被害者が瀕死の重傷であるのを、そのまま放置したことになり、それを自らで証明し、救護義務違反を犯してしまったと、公表しているようなものである、そんなことをどうしてできようか。自分が轢いたわけでもないのに、誹謗中傷を浴び、実刑でも食らってしまって、自分に何があるというのか、それを思うと、名乗り出ることなどできるはずもない。
 しかもこの理屈は、
「苛めを見てみぬふりしている連中」
 と同じである。
 苛められている人にいくら同情したとしても、そしその状況をまわりの大人にチクりでもしたものなら、苛めの対象は自分に向いてしまう。大いなる逆恨みを受けるということだ。
「そんなことをして何になる」
 この思いが苛めのなくならない根本的な理由ではないだろうか。
 それと同じ理屈でひき逃げを目撃した人が名乗りでないのも、本当はひき逃げをした本人と同罪であり、もっというと、罪が重いのではないかと思う。
 そのことを頭では理解している武彦は、
「これほど理不尽なことはない」
 と思っていた。
 そんな武彦の怒りを綾子も分かっていた。
――何とかしてあげたい――
 という思いを抱いたことで、綾子は自分の能力を人のために使うことができることに、初めて嬉しさを感じた。
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次