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天才少女の巡り合わせ

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 苛めが次第になくなってくると、お巡りさんへの発信もおのずと少なくなる、しかしその分、テレパシーではなく、実際に知り合いたいという気持ちに駆られるようになり、財布を拾った時のきっかけを利用して、学校の帰りには必ず交番に寄るようになっっていった。
 時には差し入れを持って行ったこともあった。
「おいしいよ」
 と言って、ニコニコ笑いながら食べてくれるのを見るのが好きだった。
 その巡査は決して恰好がいい「イケメン巡査」というわけではない。どちらかというと愛嬌のある顔をしていて、笑顔になると、顔をくしゃくしゃにして、不細工にも見えるくらいのその表情が、綾子には癒しになった。
 差し入れしたお菓子をおいしそうに食べるお巡りさんの姿は、まるで頬袋をいっぱいに膨らませ、目をこれ以上ないというほど、閉じるでもなしに、目を細めているハムスターの様子に似ていた。
「ここまで満足した表情の人間を見たことがない」
 そう思うと、綾子はお巡りさんにそんな表情をさせているのが自分であるということに気付いて、これが無意識の中の自分の力なのか、それとも超能力などというものではなく、ただ単に好きな人を意識することで、相手がそれに気づいて喜んでいるという、恋愛小説に出てくるシチュエーションのようなものなのか、気持ちとしては、後者であってほしいと思っていた。
 正直綾子が自分で分からないのであれば、まわりの誰にも分かるはずもない。もし分かるとすれば、それは当の本人であるお巡りさんしかいないだろう。
 お巡りさんは、綾子にとって、
「ナイトのようなものだわ」
 と思っていた。
 巡査という職業からしても、自分を助けてくれる力を持っている。ただ、それは警察としての権利があるというだけで、本当は公務員として、いろいろ縛りがあることなど、中学時代の綾子に分かるはずもなかった。
 それでもミステリーなどを読んでいると、そのうちに巡査という職業の辛さも分かってくるような気がして。そのうちに、
「あの人の癒しになれればいい」
 と思うようになった。
 綾子は自分がお巡りさんをかつて自分が苛めから逃れるために利用した相手であるということを忘れかけていた。
 ただ、それだけ自分の中で余計な能力を使わないようになっていたのは事実で、それは自分がその超能力を意識することなく使えるようになった証拠でもある。
 つまり自分に危険が迫った時、本能が働いて、誰かがその人にとっても無意識のうちに綾子を助けるような行動を取るようになったことだった。
 しかし、それを実証することは今のところない。それほどの危険を幸か不幸か、まだ綾子は味わっていないということだ、
 だが、実際には彼女の中の、
「超能力の発展形」
 とでもいうべき状態は、実は他の誰もが持っている能力でもあった。
 本能は誰にでもあるもので、その本能を意識して使うか、それとも無意識に使うかの違いであって、意識して使えるのが綾子の能力だったはずだ。
 しかし、それを封印してしまい、本能だけになってしまうと、結局は他の皆と能力としては遜色のないものになってしまっているだろう、
 そんなことを綾子は分かっていない。
 そういえば、小さな頃超能力を持っていて、綾子と同じように天才少女などと言われてちやほやされていた子供が、大きくなると、何の能力もなくなってしまうということを何度となく聞いたことがあるだろう。
 それは、綾子と同じように、意識せずに本能が働くようになったことを本人が、
「超能力の発展形」
 と思うようになったことで、勘違いからか、本能というものが一番の超能力のように思うからではないだろうか。
 綾子は、そこまでハッキリとした考えを持っていたわけではないが、漠然と考えることで、
「私は他の、超能力を持った天才少年少女と言われた人たちとは違うんだ」
 と思うようになった。
 それは、意識と本能に気づいたことによって、会得した感情なのではないだろうか。
 そういう意味で、テレビに出れなくなったことは、必然だったのかも知れない、ただ、ウソつき呼ばわりされたということは、自分の中にトラウマを生むという、取り返しのつかないことになってしまったのは、もうすでにどうしようもないのだが……。
 綾子は、お巡りさんと仲良くなったことで、それが恋愛感情に結び付いているのかどうか分からなかったが、それが綾子の初恋であったのは間違いないだろう、
 いわゆる初恋のお年頃ということになると、その頃の綾子は、
「天才少女」
 と呼ばれて、それどこではなかったではないか。
 それを思うと、今が初恋だと自分でも認識できなかったとしても、それは無理もないことのように思えた。
 天才少女が普通の女の子になって、人を好きになった。いいことに違いない。
 彼の名前は真田武彦と言った。警察に入ってから最初に知り合った頃は本当に新人だったようで、研修期間中だったかも知れない。綾子のことは、
「お財布を拾って、ちゃんと警察に届けてくれた善良な一市民」
 というだけの意識だったが、毎日のように差し入れなどを持ってきてくれることで、まるで妹ができたような気がして、真田自身も嬉しかった。
 武彦は自分の中学時代を思い出していた。中学時代は剣道部に所属し、真面目一本鎗の性格で、どちらかというと、勧善懲悪的なところがあった。そういう意味では融通の利かないところがあり、悪だと分かっていても、相手に権力があることで、その権力にしたがって、
「長いものには巻かれろ」
 という風潮に嫌気もさしていた。
 警察官になろうと思ったのは、小学生の頃から出、小学生の頃から警察に顎がれを持っていたので、県道を始めたのも、当時警察署内で、県道教室が行われていたのに参加したことがきっかけだった。
 交番しか見たことがなく、警察署というところには縁がなかったのは、小学生であれば誰でもそうなのだろうが、警察署のどこか昔からの歴史ある建物にも重厚なイメージを抱いており、制服の格好良さ、さらに、規律正しく背筋を伸ばしての敬礼など、真田少年の正義感を刺激した。
「どうすれば、僕もこんな警察官になれるんだろう」
 と、小学生の頃は漠然としてしか思っていなかったが。中学生になれば、その思いも次第にリアルになってきた。
 まずは小学生の頃からやっていた剣道に磨きをかけることを目指した。中学二年生の頃には、すでに県大会への出場も果たしていて、三年生になって、県大会で三位に入るまでになっていた。
 剣道選手を目指していたわけではなかったので、三位でも十分満足だった。特に武彦は別に一位にこだわるタイプの人間ではなかった。少しずつ順位を上げていくことに喜びを感じ、最終的に一位になればいいと思っていた。逆に一位になってしまうと、
「そこで目標を失ってしまうのではないか?」
 と考えるようになり、一位という最高位を維持することは、苦しみでしかないのではないかとも思うようになっていた。
 リアルに考えるようになったというのは、そういう意味で、それ以外のことも何でも現実的に考えるようになり、子供としては、実に夢のない性格になりつつあった。
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次