天才少女の巡り合わせ
綾子が生まれる十年くらい前に、テロ集団とも言われた宗教団体が存在し、彼らが国家転覆をも視野に入れたテロ計画を画策していた時期があったということは、本で読んで知ることとなった。
親に聞くわけにはいかない。親は綾子を自分たちに都合がいいように洗脳し、それでテレビ出演をさせていたという、動かすことのできない過去がある。綾子はそれを罪だとして親を追求することは自分にはできないと思ったが、一線を画しておかなければいけない相手だということをずっと感じて生きてきた。
そういう意味で、綾子は自分が普通の女の子になりたいという意識があるにも関わらず、親には自分の気持ちを悟られてはいけないと思うようになっていた。
それに、親が何を考えているのか、自己保身のために、それくらいは理解していないと、今後自分がどんな目に遭うか分からないと思っていた。だから、この能力に嫌悪を感じながら、決して手放してはいけないものだという意識は持っている。
だが、昨日出会ったおばあさんのそばにいれば、
「私は、この能力を失うことなく、普通の女の子としていられるのかも知れない」
と思うようになった。
人にはない能力を持っているからと言って、それが特別な人間という意識を持つ必要などないのではないか。きっと自分と同じように、人にない能力を持っていることで、その人もまわりから謂れなおない迫害のようなものを受けていて、世の中の理不尽さを感じている人もいるかも知れない。
そう思うと、綾子は自分をこれまでのように、自己嫌悪に無理に貶める必要などないのではないかと思うのだった。
世の中には、もっと自分の知らないことがあり、自分一人だと思っているこんな感情を持っている人がたくさんいるかも知れないと思うと、気は楽になってきた。それを与えてくれたおばあさんが、綾子には神様のように見えた。神様というのが大げさであれば、本当は親に感じるべき思いを感じてもいい相手だと思い、
「やっと、探していた人を見つけた」
という感覚になっていくのを感じていた。
綾子は、その日学校が終わってから、おばあさんの家に早く行きたくてたまらなかった。その日一日は、自分で今までに感じた一日の中でも初めてと言ってもいいくらい、時間が気になって仕方がなかった。
「五分おきには時計を気にしていた」
と言ってもいいくらいなのだが、本当の自分の意識としては、
「もう三十分くらいは経っただろう」
と思い、見た時計がまだ五分しか経っていないことに愕然としたというのは正直なところであった。
今まで時間の感覚が違ったことなど一度もない。それが当たり前だと思っていたので、自分の頭がどうかしてしまったのではないかと、少し不安になって恐怖を感じたくらいだったが、そんな感覚が一度のみならず、二度も三度も怒ってくれば、
「前にも感じたことがあったはずの感覚」
と感じるようになると、何が錯覚なのか、分からなくなっていた。
そう思うと、さっきまでの不安が急にスーッと楽になり、不安が少しずつ消えていった。今まで不安を感じた場合、こんなに簡単に不安が取り除かれたこともなかった。何もかもが初めてであるということを感じる一日であった。
学校の授業が終わり、急いで教室を出ると、後ろを一切振り向くこともなく、校門を出た。それはいつものことであり、誰も意識していないだろう。それだけ綾子は学校にいてもいなくても、誰も意識することのない存在になっていた。
綾子は、一度図書館で天体の本を読んだことがあった。ギリシャ神話などが好きなのだが、元々は小学生の時に学校から社会見学でプラネタリウムに行ったのが天体を好きになったきっかけだった。中学に入り、ギリシャ神話の存在を知り、それが星座と密接に関わっていることを知ると、星座を神話から見ることを覚え、それに関しての本をよく図書館で見るようになった。
その時に見た本で興味深いものがあった。
「星というものは、自分で光を発するか、それともまわりの光を受けて反射することで光って見えるのどちらかである」
というものである。
しかし、星の中には、
「自ら光を発することもなく、またが他の星の光を浴びても、光を発しない星がある」
というのである。
「その星は、決して光ることはなく、真っ暗な宇宙空間でまったくその存在を知られることはないので、そばに近寄ってきたとしても、誰も気づかない」
という、本当に恐ろしい星が存在するという。
「気が付いた時にはもうすでに遅く、衝突している」
というのである。
どんなに小さな星であっても、地球くらいの星であれば、衝突してしまうと、ただで済むことはないだろう。
「生物はすべて死滅するのではないか」
と言われている。
もし、生き残ったとしても、一部の生物しか生き残っていないのだ。生態系のバランスが崩れてしまって、餌になるものがなかったりして、そのために死滅を待つだけになってしまうのは、生き残ったとしても、何の意味があるというのか、何しろもう地球は地球ではない状態になっているのだ。生き残ることにどんな意味があるというのか、教えてもらいたいものだ。
それはさておき、宇宙にはそんな恐ろしい星が存在するという。あるミステリー作家は、それを、
「邪悪な星」
として自分の作品に描いていた。綾子はその場面を後から教えてもらったが、それを聴いた時、
――私は、そんな邪悪な星と同じ運命なのかも知れない――
と感じた。
自分は人と関わることをせず、誰からも意識されずにただ存在しているだけ、道端に落ちている石ころ、これだって、誰にも意識されることなく、ただ存在しているだけである。
そんな存在に綾子は憧れている。邪悪と言われてもいい、一人でいても、寂しさを感じさせることはない。学校でも家でもそんな存在をずっと意識していた。
それでいいと思っている。必要以上に目立たなければ今の自分であれば、勝手にまわりが存在を意識しないでくれる。
ひょっとすると、これも自分の持って生まれた能力の一つなのかも知れない。今までの自分の能力は、持っていれば皆からすごいと言われるだけのものであったが、綾子にはそんな能力はいらなかった。人の前から存在を消すというようなどうでもいいような能力の方が、綾子にはよほどありがたかった。
今までの能力は、他の人に対してありがたいと思えることなのかも知れないが、自分にとって何の役に立つものではない。むしろ自分を苦しめるだけのものになってしまう能力などいらないのである。
そんな気持ちをずっと持ち続けていると、自分がどんどん内に籠っていくのが分かる。だから余計に人から気にされないことを望むのだった。
綾子はいつもより早く学校を出て、急いでおばあさんの家に向かったのだが、学校からおばあさんの家までは歩いても二十分くらいのものなので、本当は急いでいく必要もないのである、
――こんなにも、どこかに早く行きたいなどと思ったのは、いつ以来だろう?
学校が終わっても、すぐに家に帰って宿題をこなせば、後はテレビを見たり、ゲームをしたりする程度、ネットのゲームでは数人の友達がいるが、皆他県の人で、会える教理というわけでもない。中には、
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次