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天才少女の巡り合わせ

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 おばあちゃんに話をして、一応警察にも届けてもらうことにした。誰か善良な人が拾ってくれて、警察に届けてくれる可能性があると思ったからで、おばあさんはそれを聞くと近くの交番に届けを出しに行った。綾子も同行し、
「お孫さんですか?」
 と聞かれて、
「いいえ」
 と即答してしまったが、その時のおばあさんの表情がとても悲しそうな顔をしていたのを見て、
――どうしたのかしら?
 と思った。
 おばあさんは警察に届けるようにいいはしたが、心の中では、
「大金なんか拾ったら、警察に届けるような人なんて、万に一つもいないわよ」
 と思っていた。
 そんなことは自分が一番分かっているはずではなかったが。それなのに、まるで気休めのようにおばあさんにどうして言ったのか、そんな無責任なことをどうして言えたのか、自分でも分からなかった。綾子はそんなことを言ってしまった自分に自己嫌悪を感じてしまっていた。
 少し綾子は疲れていた。
「おばあさんのあの優しい目と、もっと一緒にいたい」
 という思いと、おばあさんを欺くようなことを言ってしまった自分に対しての自己嫌悪で、疲労してしまったのだ。
 おばあさんはそんな綾子を見て、
「今日はどうもありがとう。もし、時間があるのなら、おばあちゃんの家に寄っていくかい? 私は帰っても一人なので、一緒にご飯を炊経てくれると嬉しいんだけど」
 と言われた。
 嬉しかった。こんなに優しくされていいものなのかと思うと、次第にマスコミから利用された一人の女の子がまるで他人のように思えて、心底その子のことを、
「かわいそうな子だ」
 と思うようになった。
 いろいろな能力を持っている綾子だったが、自分のことを他人として見ることはどうしてもできなかった。
 自分に超常現象があることを話すわけではなく、過去の自分を他人として見れたことを話すと、
「それはね、綾子ちゃんが大人になったという証拠なんじゃないかな?」
 と言ってくれたが、綾子はその言葉に意味を分かりかねていると、
「綾子ちゃんは、大人になるということは、自分がだんだん汚くなってくるんじゃないかって思っているんじゃないかな? そんなことはないのよ。自分が分かってさえいれば、大人になるということは、自分の気持ちに余裕が持てるようになるということなの、そうじゃければ、実際に人間社会の中で生きていくというのは、簡単なことではないと思うのよ。大人になっていくという意識は皆持っているはずなんだけど、どんな大人になるかは、考え方次第ということかも知れないわね」
 と言ってくれた。
 何となく、目からウロコが落ちたような気がした。
 おばあさんが入れてくれた豚汁は最高だった。今までに呑んだお味噌汁系の何物でもないそのおいしさに魅了された。
 もちろん、他の食事も最高だったが、綾子はこの豚汁の味を忘れられなくなってしまった。
 食事が終えて、本当に満足そうな顔をする綾子におばあさんは、
「また来てくれるわよね? 私はいつも一人で寂しいので、孫ができたようで嬉しいのよ。また豚汁。たくさん作っておくからね」
 と言ってくれた。
 どうやら、綾子が豚汁を気に入ったのが分かったようだ。
「このおばあさんもすごい力を持っているのかしら?」
 と思ったが、おばあさんが綾子のことが分かるのは、彼女の言う通り、その言葉の中に入っていた。
「孫ができたみたい」
 この気持ちと、
「寂しい」
 という感情が、おばあさんに綾子を見ていて、何でも分かる目を持たせたのだ。
 そういう意味では超能力を持っている綾子であっても、おばあさんから見れば、
「まるで赤子のようなもの」
 だったのだ。
 その日は、完全におばあさんの優しさにすっかり甘えることになってしまい、綾子は自分の能力を無意識に封印していたようだ。
「このまま甘えていたい」
 という思いが強かったことで、自分の能力を封印したのは、きっとおばあちゃんというものを知らずに育った綾子のまだ子供の部分が見え隠れしたからであろう。
 その日、綾子は一日、
「おばあちゃん」
 という感覚の余韻に浸りながら、ゆっくりと睡眠に入った。
 睡眠というのは、潜在意識と言われる無意識が見せるものである。いつもまわりを気にしているために、夢もほとんどが怖い夢ばかりになっていた綾子は、その日、初めてと言ってもいいくらいに、怖い夢以外を覚えていることになったのだ。
 しかも、その夢にそのおばあちゃんが出てきて、おばあちゃんがお金を失くすという部分を夢に見たのである。
 最初は、
「おばあちゃんが私の夢に出てきてくれたんだ」
 と思って素直に喜んだが、おばあちゃんの行動はどうも夢を見ている綾子の様子が分かっていないようだった。
「どこに行くのかしら?」
 と綾子をまったく意識せず、おばあちゃんは自分の家で徘徊している。
 そして、どうやら、お金の保管場所の近くにお金を置いて、ちょうどその時、呼び鈴が鳴り、どうやら宅配便か何かが来たのか、そこに出ている間にお金をそのまま置いたままにしていたようだ。
 おばあさんがそのお金をその場所にあるということにどうして気付かなかったのかまでは分からないが、何かをしていて急にドキッとさせられることがあると、その瞬間から、直前の記憶を喪失してしまうことがあるというのを聴いたことがあった。
 彼女は超常現象でテレビにも出たことがあるいわゆる
「天才少女」
 と言われていたのである。
 それくらいの心理的なことの勉強はしていた。いや、親から予備知識として勉強させられたと言ってもいいだろう、
 夢というものは、超常現象の基本的なところは認識しているつもりだった。無意識の時にだけ見せるものであるから、意識して夢の内容を覚えることはできない。つまりはどんなに超能力を持っていたとしても、都合よく記憶しておくことは不可能なのだという感覚である。
 だが、この日感じたのは、
「夢というものを、自分一人では無意識に逆らうことはできないけど、もし自分の夢に他人が介在してくれば、無意識ではなくなるので、自分の都合よく操ることもできるのではないだろうか?」
 という思いであった。
 その思いは綾子にとって、自分が本当に「天才少女」と呼ばれていた過去から、普通の女の子へと変えることのできるチャンスなのではないかと感じていた。

              時代の流れ

 綾子は、普通の女の子に憧れていた。
「あなたは、他の人の持っていない不思議な力を持っているの。あなたは、他の人とは違うの。ちゃんとそのことを理解していなければいけないのよ」
 と言われ続けた。
 小学生の低学年の女の子に、しかも親が諭すのだから、その信憑性は疑うまでもない。完全に信用してしまっていたとしても、それは無理もないことだ。
 それを洗脳といい、マインドコントロールということは高校生になってから知った。いい表現としてではなく、イメージとしては、宗教団体などが行う信者を団体にとって都合よく操るためのものであるということだ。
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次