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天才少女の巡り合わせ

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「二人は夫婦だったらしいんだけど、こういう変態プレイが好きだという共通点以外には、お互いに一緒にいるメリットがないほど、関係は冷え切っていた。実際に離婚をお互いに言い出していたくらいで、女も男もそれぞれに浮気相手がいるというような体たらくで、そんな夫婦なんで、奥さんも旦那が死んだからと言って、別に悲しむ風ではない。それよりも喜んでいたくらいさ。俺はそれを見て、そしてさっきのプレイを思い出すと、背筋がゾッとしたものだよ。だが、俺のために、おばあさんに殺人をさせたのは間違いではない。でも、それで誰も損をすることがないと分かると、まずは死体の始末だった。昼間目立つから、奥さんが車を持ってきて、旦那をトランクに積んで、夜になって、この空き地に埋めたんだ。いつかはここで工事が行われるかも知れないが、その時には白骨化しているだろうし、時間が経てば経つほど、事件は風化していく、事実を知っている人もいないんだし、皆この男がいなくなっても構いはしない連中ばかりだということで、死体の始末に異議を唱える人はいなかった。埋めておいて、奥さんには旦那の行方不明の捜索願を出すようにいったさ。黙っている方が何かあった時不利だしな。なあに、年間八万人も失踪している日本で、一人男性が行方不明になったくらいで、必死に捜査なんか警察はしないさ。せめて、写真を警察関係で全国にばらまいて、見た人は連絡ください程度にしか動かないんだ。埋めてある以上、掘り起こされない限り、分かりはしないさ」
「もし、見つかったら?」
「今ではDNA鑑定があるから、身元くらいはハッキリするかも知れないな。どうもあの男、ちょっと俺に似た匂いがあったので、ちょっとしたことで前科でもあって警察に指紋などが残っているかも知れない。だが、それも白骨になってしまえば分からないけどな」
 まさしくその通りだった。
 二人の、いや、その場の三人の考えと利害が一致したのだろう。おばあさんもその場の異様な雰囲気にのまれてしまったのか、若い二人にしたがうしかなかった。
 女の方としても、その頃にはまわりに対して旦那の悪口を言いまわっていたり、旦那は旦那で妻の不貞を触れ回っていたという、どっちもどっちということだ。
 そんな泥沼の状態で、いくら事故に近いとはいえ、自分と旦那が変態プレイの挙句、勘違いされて、旦那を殺されたなどという本当の意味での羞恥にはさすがに耐えられなかった。
 もし、事情聴取にしても、これから行われる裁判にしても、いくら自分が犯人ではないとはいえ、この事態を招いたのは自分である。まわりからどんな目で見られるか、それを思えば、ここはこの男にしたがうしかないと思ったことだろう。
 そういう意味で利害の一致を見たのだ。
 そもそも、そんな変態プレイ、公表できるはずもなかった。無罪であっても、もう世間に普通に戻ることはできない。これは、何としても避けたかった。
 それよりも、夫が行方不明になり、いずれ死んだことになって、その保険金を貰った方がいい。
 ただ、これがこの事件での第二の悲劇を生むころになった。それから三年して、奥さんの死体が発見されることになったのだ。このあたりのいきさつを聞きたいと思った。
 綾子の方は、じっと和田の方を見ていた。
――この人、そんなに悪い人じゃないんだ。逆にいい人なのかも知れない――
 と思った。
 おばあちゃんの家で、一緒におじいさんの仏壇に手を合わせている姿を見ると、本当の親子ではないかと思うほどであった。どんな理由があるにせよ。人を殺めたのだから言い訳はできないのかも知れないが、仏壇に手を合わせている二人を見ると、そこには明らかな懺悔があり、ウソ偽りのない気持ちを感じることができた。
「最初は、このまま奥さんが大人しくしてくれていれば、別に何でもなかったんだけど、奥さんからすれば、保険金を早く受け取らなければいけないという事情に迫られることになったんです」
 と和田は言った。
「それはどういうこと?」
 と武彦が聞くと、
「行方不明になって失踪宣告を受けるまでに七年あるんですが、あの奥さん、男を作っちゃいましてね。それでだいぶ貢いだらしいんです。それで我々三人、奥さんとおばあさん、そして俺の関係がそこで崩れてしまった。まず、奥さんはおばあさんを揺すってきた。おばあさんはああいう性格だし、しかも奥さんに後ろめたさも感じているので、俺に黙って一人で何とかしようとする。ただ、あの奥さんは俺が思っていたよりもさらにしたたかで今度は俺迄揺すってきた。同時に二人を揺するにかかったんです。俺も脛に傷を持っているから、誰にも言えない。ましてやおばあちゃんには絶対にいえない。それでしたがうしかなかったんだが、俺はふとしたことでおばあさんも脅されていることを知って、本当に憤慨した。この女殺すしかないと思ったんだ。あの女も脅迫を俺だけにしておけば、俺から殺されることもなかったんだろうが、結局俺は自分が裏切られたというよりも、おばあさんを裏切ったことが許せなくて、あの女を殺した。その時は、捕まってもいいというくらいに思っていたからね。だから、すぐに見つかってもいいように、細工らしい細工もしていなかったのさ」
 とそこまでいうと、涙で噎せ返っているのが分かった。
「と来rでどこで殺したんだ?」
「殺した場所は、例のあいつの旦那が埋まっている当たりさ。あそこで胸を刺したんだが、凶器を抜かずに、そのままにしておけば、血が噴き出すことはない。ただ、あそこで死体が発見されると、もし、白骨が出てきてその関連性を見つけられると、おばあちゃんがヤバいと思ってね」
「どうしてそこで殺したんだ?」
「あの場所には、あの女から呼び出されたのさ。自分たちがあいつの旦那を殺したことを思い知らせるつもりでもあったのか、結局は自分だって同罪のくせに、女ってのは本当に金に目がくらむと、何をするか分かったもんじゃない。そういう意味で、俺は後悔していないがな」
 と和田はもう完全に観念していた。
 おばあさんは黙って聞いていた、おばあさんも観念しているのかも知れない。
 綾子と武彦あhそれを聞きながら、黙っていた。
「お二人、まるで本当の親子のようですね」
 と、武彦はボソッと言った。
「そうだよ。私にとっては息子のようなもの。そして、武彦君、君も私にとっては孫のようなものだね。綾子ちゃんも孫娘だとずっと思っていたよ」
 と言って、微笑んでいた。
「ありがとう、おばあちゃん」
 綾子は、おばあちゃんの命がそんなに長くないことを分かっていた。
 それは綾子よりもおばあちゃんの方がもっと切実に分かっていることであろう。他の二人はそこまで分かっているわけではないと思っているが、綾子にとってはおばあちゃんの今の言葉がすべてを表しているような気がした。
 和田は武彦によって、一緒に警察へ出頭することになった。おばあちゃんももちろん、一緒である。
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次