小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

天才少女の巡り合わせ

INDEX|27ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「その奥さんは決して旦那を愛しているわけではなかった。逆にこんな性癖を植え付けた旦那を恨んでいるくらいだったんだよね。でも、元々は異常だったんでしょうね。そうじゃなきゃあ、あんなプレイができるはずがない。本当に鬼気迫った形相にあの声は、元々異常性癖でないと出せないものだからね」
 とおばあちゃんは言っていた。
 世の中には、と最初に和田が言ったが、果たして世の中というのは、一体何なのだろうか?
 綾子は、その話を聞いて、何かの理不尽を感じていたが、その理不尽さがどこからくるものなのかよく分かってはいなかった。それを理解するまでには、まだまだ大人になる必要があるのであって、だからこそ、最近よく感じている、
「大人になんてなりたいとは思わない」
 という感覚になっているのではないかと感じていた。
――それにしても、おばあちゃんが、いくら悪くないという話であったとしても、人を殺したなんて――
 と、綾子は自分がどのような目でおばあちゃんを見ているのか、怖くなった。
 もし見ているとすれば、そこには同情の色が濃くなっていると思うのだけれど、そんな目は、
――却って失礼になるのではないか――
 と思ったのだ。
「世の中には、本当に常人には分からない性癖を持っている人がいると言いますからね。ただ、それが性癖というだけでなくとも、猜疑心や疑心暗鬼というのも、相手に対しての愛情から生まれると言ってもいい。だからこそ厄介で、その人にとってみれば、忌まわしいことだとは思いながらも、実際には自分が悪いわけではないと思っている。だから、猜疑心も疑心暗鬼も誰もが明日にはなるかも知れない代物なんですよ。隠しているだけでね。だから実際に異常性癖と猜疑心の強い人とを比べると、普通は前者を悪だとし、後者をしょうがないものだとする。これも一種の差別なんじゃないかと思うんですよ」
 と、言い出したのは武彦だった。
「旦那はそんなに冷静になってよく言えますね。おばあちゃんの気持ちを考えてあげてくださいよ。こういうのを不幸な事故っていうんじゃないですか? 誤って殺してしまったとして、殺された方にも紛らわしかったという後ろめたさがあるんだから、これは立派な事故ですよね」
 と、和田が言った。
「いや、実際にはそうであったかも知れないけど、そこで警察に通報もせず、埋めてしまったというの、明らかに心象が悪いです。どんなことがあっても、その時に名乗り出るべきだったんですよ。だから、今回の奥さんがまた殺されるようなことが起こったんじゃないですか?」
 と、武彦はそう言いながら、やり場のない怒りをどうすればいいのか、迷っていた。
「でも、どうしてこの場に和田さんがおられるんですか? さっきは和田さんと一緒に何かを話されていたんじゃないかと思ったんですけど」
 と、綾子が聞いた。
 この事件における和田という男は何を演じているのだろうか?
「その場面をこの俺が見ていたというわけさ。俺はその時ちょうど通りかかって、空き地に入ろうとする二人の男女をたまたま見かけただけなんだ。夕方近くにはなっていたけど、いくら人通りが少ないところだとはいえ、よくもそんなところでと思っていると、男女が入っていった叢から、何か悲鳴のようなものが聞こえたのさ。でも、よくよく聞いてみると、別に断末魔の声だっていうわけでもなく、よくいうでしょう、『絹を引き裂くような女の悲鳴』ってやつ、そんなんじゃなかったんですよ。俺も一応、男女のことは少しは分かっているつもりだったので、『ははぁん、これは、羞恥プレイの合間の興奮剤のようなものじゃないか』ってね。そう思うと、こちとら男の虫が騒ぐろいうか、覗きたくなるのもしょうがないというものですわ。しかも二人を見ていると、こっちに俺がいることが分かっていて、それでさらに大きな声を出しやがる。これは明らかに見てほしいというそれこそ羞恥プレイの極致ですね。それではってんで、見てやることにしたんです。こんな興奮することはなかなかないですからね」
 だんだんと和田という男が興奮してくるのが分かった。
――なるほど、この男がくだらない事件ばかりを繰り返しているわけが分かった気がする――
 と、武彦は思った。
 小心者だというだけに、こんなことにしか興味を示さない男なのだと感じた。これでは大きなことができるはずもない。これでは、鉄砲玉がいいところだ。
 武彦はその時初めて、この男が鉄砲玉であることを悟った。さすがに綾子がそれ以前からそう思ってきたなど思いもしない。
「それでどうしたんだね?」
 と武彦が、苦々しい顔で訊ねた。
「はい、二人は明らかに俺に気付いて、さらに大きな声を挙げ始めました。それが悪かったんですね。淫蕩な声であれば、まだいいのですが、女の悲鳴がだんだんと断末魔に近い声になっていったんですよ。きっとまわりには誰もいないと思ったんでしょうね。まったく二人は完全に無防備になっていました。やppり、一つのことに集中しているとまわりが見えてこないんですかね。あんなに怪しいことをしているんだから、本当なら細心の注意を払うべきで、しかも、本当の羞恥プレイなら、見えるか見えないかというチラリズムのような心理が働くはずなんでしょう。それなのに次第に大声になっていたので、この俺の方が焦ってくるくらいでしたよ。そういう意味で、あの二人は素人だったんでしょうね」
 と、いういかにも彼の持論でもあるかのような話を教授していた彼は、どうやら有頂天になっていたようだ。
 さすがに武彦は見かねて、
「君の見解はいいんだ。事実を話してくれ」
 と、さらに苦々しい表情になり、和田を見つめた。
 さすがにこれには和田も恐縮し、神妙になった。その場にいるのは、おばあsなであり、高校生の女の子だからだ。
「で、二人の痴態をこの俺が向こうからは見えないように息遣いだけで相手に存在を知らせるように見ているという光景に、急に割って入る人がいた。それが、このおばあちゃんだったんだよ。おばあちゃんは、きっと女性が絞殺されているとでも思ったんだろうね。『やめなさい』って血相を変えて入ってきたよ。お年寄りとは思えないほど素早くね。そして、ちょうど運悪く、男が女の首に紐のようなものを巻き付けていた。これも一種のプレイの一つなんだけど、それをおばあちゃんは本当に殺されると思ったんだろうね。二人を必死に離そうとした。でも、二人は完全に自分の世界に入り込んでいて、『なんだ、このばあさん』って感じて、突き飛ばしたのさ。さすがに俺も我に返って、今度は俺が飛び出した。すると二人はパニックになったんだろうば。二人して俺を襲ってきたんだ。おばあさんは何が起こったのか分からない感じだったけど、自分を助けようとしている俺が襲われているものだから、必死になって俺を助けようとしてくれたけど、いかんせん、あの年ではどうなるものでもない。そこで思い余って、近くにあった石で、男の人の頭を殴ったというわけなんだ」
「それで?」
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次