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天才少女の巡り合わせ

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 綾子と武彦とおばあちゃん、この三人を結び付けたのは、綾子の力によるものだと思っているが、綾子の知らないところでおばあちゃんと和田が関係しているというのは、ひょっとするとおばあちゃんの中にある、おばあちゃんも意識していない潜在的な力によるものではないだろうか。
 おばあちゃんに促された結果として、今まで午後九時までおばあちゃんの家にいさせてはくれたが、それ以降は、早く帰るようにと言われたのは、この武彦の都合があったからだろう。
 そんなこととはつゆ知らず、綾子はおばあちゃんにいわれるままに家を出て家路に急ぐのだった。
 その日、武彦と偶然鉢合わせてしまったのは、武彦に、
――しまった――
 と思わせたが、別におばあちゃんからも、
「気付かれないように」
 ということを言われたわけでもないし、変に気を回せば却って、語るに落ちるという結果になってしまったかも知れない。
 何も言わないことが正解であり、最善であったのだ。
 おばあちゃんとしては、綾子を返した後で、和田を家に引き入れることにしていた。武彦を綾子の護衛に使ったのは二つの意味があった。
 一つは、もちろん綾子を無事に家に届けるためのナイト役としてであり、もう一つは、警察関係者である武彦を、和田と対面させないためであった。ただ、おばあさんもさすがに武彦と和田が面識があり、自分と同じように刑務所に面会に行っていたほどの仲であることを知らなかった。
 そういう意味では、このお話において、ある程度の接点は皆あるのだが、肝心なところで接していないというところが、特徴でもあったのだ。
 和田について少し話をしておく必要があるだろう。
 和田という男は、小さな事件にいつも首を突っ込んでいるという印象だが、一種の「チンピラ」の一人として意識されることが多いようだった。
 暴力団の抗争などで、相手もボスの暗殺を狙い、その犯人として自首するのは、その組織内の鉄砲玉のような男ではないだろうか。
「出所後のお前の立場は保証する」
 とかなんとか言われて、自首するのだ。
 もし断れば、自分も消されてしまうという危うい立場にいるのだから、考えてみれば、組織に消されるよりも警察の中にいた方が命の危険は少なくともない。さすがに組織も警察内部で事を起こすなどできるはずもなかったからだ。
 ただし、余計なことを口にしてはいけなかった。いくら警察からひどい取り調べを受けようとも、それに臆して何かを喋ろうものなら、出てきてからの命が危うい。そういう意味で鉄砲玉というのは、組織のことをあまり知らないような下っ端で、かといって、余計なことを喋ったりしない男でなければいけないだろう。そう考えると、和田という男の性格もそれなりに分かってくるというものだ。
 和田は自分が組織に利用されていることは分かってきた。本当であれば早めに抜け出さなければいけないのだろうが、いつの間にか嵌りこんでしまっていて、抜け出すことができなくなっていた。
 実は和田が小さな事件ばかりが表に出て、小心者と思われているのも、
「木を隠すには森の中」
 ではないが、たくさんの小さなことに紛れ込ませると、隠そうとしなくても隠れるのではないかというのが、組織の考えであった。
 ただ、彼は組織から抜けたがっていた。そのために、ひき逃げの罪を被ったのだ。
 そう、あの時のひき逃げの本当の犯人は他にいて、彼は鉄砲玉として、担ぎ上げられただけだった。そういう意味では組織としては、
「実に都合のいい人間」
 として重宝していたことだろう。
 どうやら彼は、
「大きな犯罪を隠すための隠れ蓑」
 としても利用されたのではないだろうか。
 彼も知らない大きな犯罪が組織の中で行われていたとしてもそれは不思議ではない。組織が鉄砲玉を何人も抱えていたことは、和田も知っていたが、他の鉄砲玉と言われている連中も知っていただろうか。
 ひょっとすると和田がやった犯罪を他の誰かが鉄砲玉として名乗り出たかも知れない。
 そう、この組織の行っている大きな特徴は、
「交換殺人」
 ならぬ、
「交換鉄砲玉」
 とでもいうべきであろうか。
 鉄砲玉がそれぞれで交換されると、元々の事件が何だったか曖昧になってしまう。それこそがやつらの狙いではないだろうか。
 つまり、そこに殺人などの犯罪が絡み、さらに、その犯罪の中核をなす部分が表に出てきていなければ、さらに曖昧さが増すというものである。
 鉄砲玉は何も知る必要はない。警察に出頭して、知っていることだけを話せばいいのだ。辻褄の合わないこともあるだろう。何しろ自分とは関係のない犯罪だからである。
 だが、それも組織によって計算されたことであり、その間に、本当の目的が進行していたとすれば、交換鉄砲玉は、本来の目的を隠すという意味でも有効なのではないだろうか。
 和田は、ひき逃げで検挙され、その他の細かい罪で二年という実刑を食らったが、本当はもっと大きなヤマを踏むはずだった。実刑が二年などで収まるはずのものではなく、下手をすれば十年という懲役期間を食らったかも知れない。
 彼は自分が望む望まないに関係なく、殺人事件に一役買っていた。交換鉄砲玉がなくて普通に鉄砲玉として警察に出頭しなければならないとすれば、かなりの覚悟を要する。以前、おばあちゃんのところに押し入ったくらいのことは十分にありえることだった。
 だが、実際にはそれほど多くな罪に問われることなく、普通に刑務所暮らしを送り、刑期を満了して、キチンと二年で出てきた。彼にとって二年が長かったのか短かったのか、ハッキリは本人でないと分からないが、出所後の解放された彼は、まっとうに生きることを考えていた。
 元々鉄砲玉として出頭したのは。昔のやくざのように、
「階級特進させてやるから、ここは鉄砲玉を引き受けてくれ」
 というものではなく、和田とすれば、足を洗うチャンスであったのだ。
 昔の任侠のような指を詰めるなどということは、今ではもうない。鉄砲玉が一番手っ取り早かったのだ。一度出頭して刑期を終えることで、組とも縁が切れる。組としては、どうせ、
「使い捨て」
 を目論んでいたのだから、それはそれでいいことであろう。
 彼がおばあちゃんの家に逃げ込んだというのも、元々は殺人計画の鉄砲玉として利用されようとしたからだった。
 いくら組を抜けられるとはいえ、さすがに殺人の前科が付くのは勘弁してほしかった。もしそんな風になってしまえば、普通に考えてシャバに出てきても、職もなければ、組に戻ることもできない。そうなると、こちらは踏んだり蹴ったりで泣き寝入りするしかなくなる。
 しかも、殺人に教唆したという事実に変わりはなく、一生その思いと向き合っていかなければいけないことを肝に銘じなければならなかった。
 だが、彼が実際に背負った罪は、殺人から比べれば何とも中途半端というものであった。
「これなら、組をおさらばできて、こっちにもメリットがある」
 と思ったことで、鉄砲玉としての出頭を引き受けられた。
 ではなぜ、交換鉄砲玉という方式が今回使われなかったのだろうか?
 それは、殺人事件の方に理由があった。
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次