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天才少女の巡り合わせ

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 しかも、彼にはいろいろ余罪もあり、どこから火が付くか分かったものではなかった。ただ、これは一部の人間しか知らないことであったが、ひき逃げをした相手というのは、実は組織の中でも隠れた存在であり、彼が素直に逮捕されたのも、そこに理由があったのだろう。
「和田という男が出所してきても、もう我々とは関係のない人間だ」
 と、幹部からのお達しであった。
 今まで散々彼の計画に則って犯罪を行ってきたのに、急に関係のない人間とすることに一部では違和感があったが、そもそも彼をあまり快く思っていなかった人がいなかった組織では、その決定に誰も逆らうものはいなかった。
 和田の方も組織に対して愛想が尽きていた。
「あんなにこちらのいうことを聞いてくれない組織など、俺の方から願い下げだ」
 とばかりに、拘留中もまったく顔を見せなかった組織だったこともあり、出所しても誰も来てはくれないことを分かっていた。
 それだけに、出所してから何を頼っていいのか、行き先が決まらずに困っていた。
 それでも組織を手が切れるにはちょうどいい機会である。ただ、彼がこのまま善良な市民として生きていくことのできないことは、彼に限らずに分かっていた。それを憂慮していたのは、他ならぬ武彦だったのだ。
 武彦は彼を善良な市民にしたいと思っていた。せっかく組織から手が切れるようになったというのに、また悪の道に戻っていくことを憂慮したのだ、彼が拘留中、ほとんど誰も面会にはこなかったが、武彦だけはそれほど頻繁ではなかったが、面会に訪れて、今後の話をしたりしていた。
 だが、彼は頑なだった。せっかく面会に来てくれたのは嬉しかったが、自分よりも若くて、しかも巡査では、何をしてくれるわけでもない。次第に胡散臭く感じてしまうようになり、「もういいよ。俺のことは放っておいてくれ」
 と嘯いてしまった。
 ただ、彼には出所してからでも、ひき逃げをした相手の遺族に対しての弁償問題が残っていた。毎月いくらかを送金するように裁判で決まったことで、彼は刑務所を出てからも代償のため、ずっと縛られることになっている運命だったのだ。
「地道に働いて、コツコツと返していくしかない」
 と巡査は諭したが、実際にそんなことは誰にでも分かっていて、それ以外に方法はないのだろうが、分かり切っていることをわざわざ念を押されるというのは実に辛いものだった。
 武彦はそういう意味で、空気の読めないところがあった。本人はもちろんそんなつもりはない。罪がないだけに、言われた人間は困惑する。そして、その場の困惑をすべて彼の生に置き換えてしまう。だから、武彦という人間に対して、快く受け入れる人もいれば、反対にどこかに恨みを貯めてしまう人もいる。つまりは、
「味方も多いが、敵も多い」
 というタイプではないだろうか。
 綾子にはそこまでは分からなかった、綾子も特殊能力を持ってはいるが、まだ子供なのだ。人の気持ちの裏側の、本当に汚い部分や、計算された打算のようなものは見抜くことはできない。ある意味綾子が見抜けるのは、人間が素直な気持ち、あるいは、計算されていない部分でしかなかったのだ。
 詐欺グループの活動は結構昔からあったようだ。和田が彼らに関わるようになったのが、逮捕される三年前くらいだったが、彼は作戦参謀としては三代目だったという、過去に何人かいたくらいなので、かなり前から彼らの活動は行われていた。警察の方でマークし始めてから五年経っているということだったので、少なくとも七年か八年以上は活動していたということだろう。
 そんなに前から人知れず、老人を騙し続けていたというのは許されることではない。彼らのグループはどちらかというと少数精鋭だったこともあって、警察がマークを始めてもそのフットワークの軽さで、巧みにかわしていたことだろう。
 手口としても、さまざまだったようで、正攻法もあれば、相手によっては、彼ら独自のやり方があったようで、その方法でしっかりとだますことができていたようだ。
 証拠も残っていないので、気付いた時にはすでに遅く、訴えたとしても、お金が戻ってくることはないということだった。
 被害に遭った人の中には全財産をむしり取られた人もいる。人によっては、遺言書を何の疑いも持たずに、他人に遺産をすべて遺贈するという遺言を書いて、死ぬまでまったく気づかなかった人もいる。そんな被害を聞くたびに、武彦は身を切られる思いをしたくらいで、彼の考えとしては、組織を壊滅に追い込むのも一つなのだが、詐欺グループに加担する人が少なくなることを願っていた。そういう意味で、和田に対しての接し方も、
「この男は自分に悪意があるという意識よりも、自分の頭脳を買ってくれた組織に対して忠実に従っただけだ」
 という考えを持っていた。
 自分の手を貸したことがどういう結果をもたらしたか、ハッキリと分かっていないのがこの男の罪であった。人を騙す手助けをしたということと同時に、この男自体、騙されていたと言えるのではないだろうか。そう思うと、
「この男は公正させることはできるんだ」
 と武彦が考えたとしても、それは無理もないことかも知れない。
 だが、警察官としてそんなに甘い考えでいいのだろうかという意識も上司にはあるようで、彼が刑務所に時々面会に行っているというのも、本当は懸念していた。
「コロッと騙されなければいいが」
 と思っている人も少なくなく、特に警察官という立場上、いろいろ難しいこともあるに違いない。
「詐欺などという卑劣な犯罪をなくしていかなくてはならない」
 という考えは、たぶんほとんどの人間が感じていることであろうが、
「では、どうすればいいのか?」
 ということになると、人それぞれで考え方が違っていることだろう。

              過去の殺人事件

 綾子は武彦を、
「お兄ちゃん」
 と言って慕っていた。
 最初は、
「お兄ちゃんなんて言って、お巡りさんに失礼かしら?」
 と言っていたが、武彦の方も、
「僕も田舎に妹がいるので、こっちでも妹ができたみたいで嬉しいよ」
 と言って、頭を撫でてくれた。
 綾子は武彦に頭を撫でられるのが好きだった。
 武彦は綾子のことを、まるで知恵足らずの女の子のように見ていた。それは悪い意味ではなく、
「この上なく純粋に見える」
 という意味で、決して悪い意味ではない。
 むしろ、そんな素振りがお兄ちゃんとしての気持ちを擽るのだ、だからと言って綾子が幼く見えるというわけではない。ちょっとした素振り、特に何かを考えている時などは、まるでファッションショーにでも出てきそうな綺麗な女性に見えた。実際には身長が百五十センチちょっとというが、綺麗に見える時は百六十五センチくらいはあるのではないかと思うほどで、考え込んでいる時なので座っていることが多く、その投げ出した足は決して無為に投げ出されたわけではなく、計算されたかのように見えた。スカートから見えるその足はまるでカモシカの足という表現がピッタリであり、しかも、武彦が見る位置はいつも彼女から見て左側の斜め四十五度よりも少し鋭利に見えるほどの角度で、見方によっては真横に見えそうであった。
作品名:天才少女の巡り合わせ 作家名:森本晃次