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貴方と私の獄中結婚

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ガキの頃から札付きのワルだったという。十五の夜に盗んだバイクで走り出した。そして校舎の窓ガラスを壊してまわった。

僕が僕であるために、人を殺さなきゃならない。最初の殺しは十六のときだ。殺った相手は敵対していた不良グループの一員で、公園の鉄棒にロープで縛ってブラ下げて野球のバットで殴り続けた。夜が明けるまでかかったという。若いとさすが体力がある。

それでもちろん少年院送りとなって、そこで最初の〈結婚〉をした。十八歳になるより前に出てるから正式でもなんでもないが。

退院して〈妻〉の家に転がり込んだ。新しい義理の父母はその日そのときに至るまで何も知らされてはおらず、そこをミサイルが直撃した。バイクとGTマシンの群れがふたりの門出(かどで)を祝福し、それが離婚の日まで続いた。曲はもちろんまだ『ゴッドファーザー愛のテーマ』じゃなくて『クワイ河マーチ』。義理の祖父母も同居してたがどちらも心労のため死んだ。

勤め先は暴力団の事務所だったがなかなか優秀な人材だった。仕事に熱を入れ過ぎて三年間のお勤めになった。ここで二度目の〈結婚〉をする。相手はなんと中学時代に担任だった女教師で、人は生まれ変われるものと信じていた。それが輪廻転生という意味でないのが悲運だった。口裂け女は結構実在しているものだが、そのひとりになってしまった。

警察は民事不介入が原則だから、事件扱いもされなかった。でもやっぱり〈傷害〉にしておくべきだったのかもしれない。そうしておけば、一番目の〈妻〉の家に押し入って、かつての義理の両親を殺す事態は避けられたかもしれないのだから。

で、無期懲役となる。ここで三度目の〈結婚〉をした。二十年も喰らった後で娑婆に出ると、さすがに少しおとなしくなった。

何より世の中が変わっていた。アナログからデジタルへ。死刑は廃止するべきです。頭がおかしいんじゃないかと思った。とにかく自分は次に人を殺っちまったら死刑で、それが当たり前だと思った。だから毎日〈妻〉を殴ってパチンコ代をせしめるくらいで済ませていたが、パチンコもデジタルの時代になってた。ある日一度も当たりが来ずに大負けして、出ると目の前に酒屋があった。コーラもビールも瓶から缶の時代に変わっていたけれど、そこには茶瓶が積まれていた。

で、そいつで通りがかりの不運な人をブン殴って仮出獄取り消し。ガラスの破片がそこらじゅうに散らばってとても気分が良かったという。だが代償は五年についた。

ここで四度目の〈結婚〉をする。やっと出所が許されて、娑婆に出た末に起こしたのがかの無名な〈○町獄中結婚妻殺し事件〉。裁判はアッサリ死刑で決着がついた。



作品名:貴方と私の獄中結婚 作家名:島田信之