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錯視の盲点

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 しかし、それはその場にいないと分からないことだ。どんなに訴えても、その場にいなかった相手には決して伝わらない気持ちがある。しかも、自分とイヌとの間には、十何年という歴史が刻まれているのだ。それを分かるという人がいれば、その言葉に、さらにはその人の言葉に信憑性が感じられないと思うのも無理もないことではないだろうか。
「ところで、イヌを飼っていた人がいたということがこの事件と何か関係があるんですか?」
 と門倉がいうと、
「それはまだ分からないけど、管理人がよく許したなと思ったんですよ。普通なら、マンションの管理を預かっている人だったら、イヌを飼うなら出て行ってもらうなどの手を考えるのが普通なのに、その管理人は犬が好きなんだろうか?」
 という鎌倉探偵に、
「いえ、そうではないようです。以前にも似たような事例があって、強硬にこちらの立場を押し古老とすると、相手が不動産会社とこのマンションの管理会社に怒鳴っていったそうです。確かにその人の言い分は通ったわけではないですが、結局その人も嫌気がさしてマンションを出ることになったんでしょうが、管理人もただでは済まなかったようです。厳重に注意を受けたり、減給もあったかも知れない。そんな思いをしてしまうと、今度はなかなか逆らえなくなりますよ」
「そうだね、きっとその奥さんは最初からマンションを出るつもりだったのか、それとも何かを覚悟してからなのか、それで管理人を道連れに心中するつもりだったのかも知れないね。言い過ぎたことには違いないけど、だからと言って巻き沿いを食らわされたんじゃあ、こっちだって適わない。それを思うと、管理人としても、住民トラブルは嫌なんだろうね。ひょっとすると、今度トラブルを起こすと、懲戒解雇だって言われているのかも知れないしね」
「そうなんでしょうね。私がイヌの話を聞いた時など、少しビビっていた感じでした。別に責めているわけでもないのに、どうしたことなんだろうって思いましたよ」
 と、門倉刑事は言った。
 そこで少し会話が途切れたが、門倉刑事が質問した。
「ところで、鎌倉さんに依頼していた人って誰なんですかね? 今出てきている人物の中に、鎌倉さんに何かを依頼するような人はいないと思うんですが」
 と考え込んだように門倉刑事がいうと、
「そうですか? 例えば?」
「まずは、管理人さんですね。あの人は第一発見者ということであり、何か関わっているとすれば、、イヌを隣の人が飼っているというだけのことでまったく事件とは関係がないような気がするし、また一緒に死体を発見したという樋口という被害者が派遣された会社の社員で、大学の先輩後輩になるそうなんですが、彼がこの事件に関わっているというような気もしないんですよ」
 と門倉は答えた。
「どうしてそう言い切れるんですか? 二人は会社でも親しい仲であり、少なくとも被害者の家を知っていることから、心配になってきてみたと言っているわけでしょう? 確かに普段無断欠勤しない人が急に会社を休むと何かあったのではないかと思うのは分かるけど、逆に言えば、それだけ二人は親しかったということなので、親しき中にも礼儀ありという言葉もあるくらいなので、仲がいいのが災いして、ちょっとしたことで喧嘩になるような仲だったんじゃないですか? 二人がどこまでの関係だったのかということも、ある意味この事件では結構大きな問題なのかも知れませんよ」
 と言った。
「確かにそうですよね。第一発見者で、しかも発見したのが二人同時ということで、少し油断をしていたかも知れませんね。確かに、第一発見者を疑えという言葉も捜査にはあるくらいですからね」
 と門倉刑事も答えた。
「それとね、詳しいことは言えないんだけど、僕に捜査を依頼してきたその人は、捜査線上にはいない人で、その人からの依頼なんだけど、その人の素振りから見ると、どうも第一発見者を怪しんでいるようなんだ。もちろん、僕にそのことは言わないんだけどね」
「どうして言わないんですか?」
「たぶんだけど彼からしてみると、僕が先入観を抱いて捜査するのを嫌ったんじゃないかと思ってね、下手なことを言って、捜査が別の方向を向いてしまうことを恐れたんだと思うんだ。あくまでも依頼したんだから、依頼した相手に任せるという気持ちにならないと、信頼関係は築けないからね。まあ、もっとも僕も依頼人がそれくらいの人でないとこちらとしても信用できないと思うところもあるので、その人の性格的には、依頼人としては合格だったんだ」
 と鎌倉探偵はそう言った。
 探偵の守秘義務というのは、警察官が守らなければいけない法律と同じである。もしすっひ義務が守られないのであれば、探偵や弁護士という商売は成り立たない。その時点で府当たり手形を二度出してしまって倒産を余儀なくされるのと同じであろう。
「何事においても、我々探偵業は信用が一番だからね」
 と鎌倉探偵はいつも言っている。
 それを守らないということは、警察官でいう。捜査情報を一般市民に漏らしたり、捜査で得た情報をどこかに売りとなすようなそんなやくざな商売のようなものである、
「なるほど、よく分かりました。必要以上なことは聴かない方がいいですね」
 と門倉刑事がいうと、
「来るべき時がくればいいますよ」
「頼みますね」
 と二人は笑顔で、まるで今日最初入ってきた時のような爽やかな気持ちで挨拶を交わした気分になっていた。

                真相

 世の中には、
「こんなくだらないことで殺人を犯すんだ」
 ということがあったりするものだ。
 殺された方からすれば溜まったものではない。
 殺した方としても、殺意がなかったのであれば、その思いは殺された人間よりも、ひょっとすると大きいかも知れない。完全に一生を棒に振ることになるのだからである。
 家族でもいれば、さらに悲惨だ。
「人殺しの家族」
 と言われ、隠れるようにして生活しなければならない、
 転居も余儀なくされることだろう。
 そんな場合は、ほとんどの阿合、
「殺すつもりなんかなかった」
 といういわゆる、
「衝動的殺人」
 というものになるのであろう。
 今回のこの意見、
「派遣社員新宮晴彦の逆さづり殺人事件」
 と、衝動的殺人と思う人はまずいないだろう。
 なぜなら、被害者をナイフで刺し殺しておいて(実際の殺害はナイフが致命傷ではなかったが)衝動的な殺人だったなどということは言えないだろう。
 しかし、いくら計画的な殺人であっても、その動機が普通の人から見れば、
「何も殺さなくても」
 と思うこともあるだろう。
 しかし、どんなにくだらない理由であっても、自分の目的を達成するためには、被害者に生きていられては困るということもある。今回の殺人には、そういう思惑も少なからず働いていたのも事実であった。
作品名:錯視の盲点 作家名:森本晃次