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錯視の盲点

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 マンションというのは、実に閉鎖された環境にあることは刑事にもよく分かっている。特に会社に出勤すれば嫌でも人と関わることになる。それを嫌だと思っている人は結構いるだろう。
「一人でいる時くらいは、自由に伸び伸びと」
 と思っていると、ちょっとした騒音でも苛立ちになってくる。
 若い頃は騒音でも、仕方がないことだと思っていたとしても、そのうちに、ちょっとした騒音が火種になってしまうことを分かるようになる。
 先ほど刑事が言った話ではないが、トラブルをわざと招こうとするトラブルメーカーというのは、人が集まればその中に一人はいるものだ。普段はネコを被っていても、何かのトラブルが発生すると、急に勢いづいて、輪の中心に立とうとする。そんな人に任せてしまうと、トラブルが解消するどころか、火を大きくしてしまったり、収束されたとしても、火種を至るところに巻いてしまったりと、ロクなことはないだろう。
 マンションでペットを飼っている人が他にもいるとは思うが表に出てきていない。ひょとすると、管理人がうまく隠しているのかも知れない。見るからにボンクラっぽい雰囲気を醸し出している管理人だが、その実、結構頭は切れるのかも知れない。表にはボンクラを装い、実は影で暗躍している人がいると思うと、このマンションの胡散臭さは本物ではないだろうか。
 今のところ、このマンションでトラブルが上がってきているという話は聞き込みの中でどこからも出てこない。
 誰もが、
「平和で静かなマンション」
 と口を揃えていうが、口裏を合わせていると言えなくもない。まったうトラブルの話が出ないのはおかしなことで、少なくともマンションのルールを破って犬を飼っている人がいるのは確かなことだ。
 しかも、それを誰も悪いことだとは言わず、なあなあで来ている。そんなに皆素直な人ばかりなのだろうか?
 却って胡散臭さがプンプンしてくるのだった。
 そのことは捜査員のほとんどが思っていることで、
「小手先の芝居に騙されるものか」
 と言っている捜査員もいる。
 だが、これ以上聞き込みを続けても、まずやつらがボロを出すことはないだろう。ただ冷静にまるでマニュアルを読んでいるだけの感情のない様子は、相手に心を読まれないようにするのと、自分たちがまったく悪くないという自己暗示を掛けるという意味で、実に効果的だった。
 ただ、そんな実に冷静で統制が取れているように見える団結心を植え付けたのは誰だろうか? やはりここは管理人が一枚?んでいると思わざる負えないだろう。そう思うと、管理人が何かを知っていると思えてくる。門倉刑事は、捜査方針で一番怪しいと思う人間を管理人に絞って捜査することにした。ただ、自分の部屋でペットを飼っていたというのであれば説得力はあるが、隣にペットを飼っている人がいるというだけでは、管理人を疑うには薄すぎる。要するに、捜査は行き詰ってしまったと言ってもいいかも知れない。
 そんな捜査に行き詰った状態の中で、被害者が殺されてから三日後くらいに、被害者宛てに一つの小包が届いた。差出人を見ると、児玉恭介となっていた。
 そんな小包が届いたことは、警察に届けられることもなく、管理人のところで止まってしまった。
 もし、この小包が警察にすぐに届けられていれば、また事件の捜査も変わっていたかも知れない。ただ、最終的な結果が変わる音はないはずではあるが……。

              鎌倉探偵

 門倉刑事は、今回の事件をまたしても鎌倉探偵の元に持ち込んだ。もっともこの事件のことは鎌倉探偵も知っていて、それだけに門倉刑事もビックリしていたが、
――どこから鎌倉さんの耳に入ったのだろう?
 と思った。
 この事件は他に誰か疑われるような人がいるわけでもなく、まだまだ事件は始まったばかりなので、誰か事件関係者が鎌倉探偵に何かを依頼するというイメージもない。
「どうして、ご存じなんですか?」
 と聞いてみると、
「実はある筋からの依頼なんだが、その人はまだこの捜査線上に浮かんでいる人物ではないので、守秘義務もあって、その名前を明かすことはできないのだが、犯人を究明してほしいということなんだよ」
「ということは、その人物はこの事件において、いずれ重要参考人として疑われるべき人物で、それまでに鎌倉さんに犯人を見つけてもらって、自分に容疑がかからないようにしてほしいということなんでしょうか?」
「概ねそういうことになるだろうね。私も彼の話を聞いて、なるほどと思うところがあったので、独自に捜査を始めていたんだ」
「何か分かったことがあるんですか?」
「少しずつぃだけどね。もっとハッキリというと、その依頼人には犯人の心当たりがあるというんだ。ただ、証拠を見つけることができない。自分のような素人だと証拠も見つけられないし、自分が犯人ではないという証明もできない。だから、私に依頼したというのだよ」
「そういうことですね」
 今まで門倉刑事は、鎌倉探偵とともにいろいろな事件を解決してきた。今までの流れでいうと、門倉刑事が捜査してきた内容と、鎌倉探偵が独自に捜査した内容と、こういう形で話をして、すり合わせた結果、事件の全貌が見えてきたということが結構あった。
 元々金倉探偵と言うのは作家だったという珍しい経歴を持っていて、作家としての目であったり、冷静沈着な想像力は、こういう風に話をしていて、どんどん膨れ上がっていくもののようだ。
 今回もきっと鎌倉探偵は何かを掴んでいるに違いないと思った門倉刑事は、決してジフンが出しゃばることもなく、冷静に鎌倉探偵の推理の邪魔をしないように心がけようと思うのだった。
「ところで門倉君。殺された男性、確か新宮晴彦という男について、何か分かりましたか?」
 と聞かれて、本当は鎌倉探偵が依頼人の守秘義務を主張するのであれば、門倉刑事としても、
「捜査状況については、お話しかねる」
 と言おうと思えば言えるのだが、自分から訪ねてきているのだし、自分たちよりもすでに鎌倉探偵が犯人に近づいていると思うと、無碍に断ることなどできるはずもなかった。
「新宮晴彦、三十二歳、M商事のK支店に勤務している人ですが、彼は派遣業者から派遣された人物です。その日無断欠勤をしたので、会社の人である樋口泰司氏が、会社の帰りに様子を見に来たというのです。その時に部屋の様子が怪しいということで管理人室に行き、管理人を伴った部屋に入ろうとすると玄関の扉が少し開いていたという。電話をしても呼び鈴を鳴らしてもまったく応答がなかっただけにおかしいと思い、二人は仲に入った。そして、殺されている新宮氏を見つけたんだといいます」
 とここまで言うと、
「その様子を、実は知っていた人がいたんじゃないかな?」
 と言われて、
「ええ、その通りです。ちょうど近所の奥さんが管理人室に入っていき、何か新宮氏の様子がおかしいということを話しているのを聴いていたということを、聞き込みをしていて情報として入っては来ました。でも、それは偶然聞いていただけだということなので、管理人の話の裏付けが取れただけで、そこでこの話は終わりましたが」
作品名:錯視の盲点 作家名:森本晃次