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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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コントロールされた暴力

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大人の私の暴力



 ところが、思い返せばつくづく愚かな話だと思うのですが、30歳を超えたころ、今で言う煽り運転の被害に遭ってしまったのです。
 その当時ビジネスで成功し始めていた私は、黒のベンツを持っていたけど、その日は仕事関係の白いカローラに乗っていました。その当時、その地域にはヤクザも多く、ベンツなら道を開けてもらえるのに、カローラではナメられたようでした。
 なぜか後ろの軽自動車が、クラクション鳴らしっぱなしで追っかけて来るのです。隣には妻が乗っています。私はイラついたけど我慢しました。

 信号待ちで相手が降りて来ました。身長185センチくらい、20代半ばで黒いタンクトップのひょろっひょろ。
 その男に窓ガラスを殴られました。私は窓を開けて、言い合いになってしまいました。
「窓殴んな! こっちが何したって言うんだ!?」
「こんな運転したら迷惑なんだよな」
私は首根っこを掴まれました。腹が立ちました。でも我慢。
 信号が青に変わっても相手はお構いなし。そこで相手のサングラスを奪って、道路に投げ捨ててやりました。相手が反対車線に転がったサングラスに気を取られている隙に、アクセルをふかして逃げたのです。

(当然、追って来るよな。どうしようか・・・もう覚悟を決めるしかないのか?)

 案の定、猛スピードで追っかけられました。後ろからプープー鳴らされながら、私は車を走らせました。妻も憤慨していますが「我慢して」と言っています。でもこの時点で、私はもうキレていたのです。絶対にダメって分かっていても、この輩に我慢出来ませんでした。
 やっぱり次の信号でもこの男は降りて来て、私はカローラのドアを蹴られてしまいました。

(んぐぐ・・・やったる)

 コイツは、ドアがへこまない程度に、自分の暴力をコントロールしてるつもりだったのしょう。でも私の忍耐力までは、到底コントロールできていません。

 私はものすごい勢いでドアを開けて飛び出し、また胸ぐらを掴もうとしたのか不用意に近付いてくる相手に、右フックを炸裂させてやりました。後ろによろける相手に、追い打ちをかける左ストレート。どちらもクリーンヒット。この時、やつの前歯が折れたのを感じました。そのまま尻餅を着きそうになった相手は、これでようやく事の重大性を理解したようで、泣きそうな顔になったのを見ました。
 それで私の胴体にしがみ付いて来ました。どう攻撃するでもなく、ただひたすら道路の真ん中でしがみ付くこの男の上半身を抱えて、投げ技としては一番簡単なサイドスープレックスで後ろに放り投げ、同時に体を浴びせました。これで肩を脱臼させてしまったようです。口から血を流し、肩を痛がる相手に対して、もみ合いはそう長くは続きませんでした。
 そうしながら私は警察のお世話になることを覚悟しました。もう、自己を正当化しようなんて思いませんでした。暴力のコントロールが出来ると思っていたつもりが、このザマです。

 相手はその後も大声で喚き散らしています。後続車から年配の男性が一人降りて来たのですが、そのけが人を遠巻きに制止し、私のことを見張っていました。私は逃げずに歩道で警察の到着を待ちました。パトカーはすぐに来ました。救急車も続いて到着しました。
 私は警察官数人に取り囲まれました。妻も車から出て来て事情を説明しようとしましたが、警察官の一人によって引き放されてしまいました。私はおとなしくしていたので、手錠はかけられてはいません。さっきの後続車の男性が110番したみたいですが、ずっと後ろから煽り運転を見ていたようで、警察にいろいろ説明されていました。

 絶対に現行犯逮捕される状況だったと思うのに、救急車が去ると意外にも私は、警察署には自分の車で来るように言われました。時間を指定して任意出頭ってやつです。妻と一緒で自宅にも近かったから、逃走の恐れはないという判断だったと、後で聞きました。