コントロールされた暴力
その指定時間に妻と警察署に行くと、私達は個室に案内されました。妻とは別べつにされると思っていましたが、同じ部屋に並んで座らされました。そこはテレビドラマで見るような取調室ではありませんでした。
最初は若い婦警さんに、住所や電話番号いろいろ聞かれて指紋を取られると、壁にメモリが書いてある場所で、正面や横顔の写真を数枚撮られました。それこそはドラマで見たことあるような写真でした。
30分くらい待った後、がっちりした男性警官が部屋に入って来ました。面接とかではないのは解っていますが、誰にも笑顔はありません。私には不安や戸惑いもありません。自分がやったことに責任を取る心構えはしてきたつもりです。その時妻は、婦警さんに連れられて別室に行きました。そして私には、本格的な事情聴取が開始されたのです。
しかし、その警察官はものすごく腰が低い話し方でした。私はどう考えても正当防衛じゃないし、相手は大けがして病院に行ってしまいました。暴行傷害の容疑者は私です。
「先に手を出したのはどちらですか?」
「私から殴りました」
「なぜ我慢できなかったのですか?」
「相手の挑発が段々エスカレートしてきたので・・・」
「格闘技の経験があったのですか?」
「・・・プロレスごっこくらい」
こんなことをいろいろと聞かれながら、私は姿勢を正して正直に答えました。テレビドラマで見るような威圧的な感じは受けず、ちゃんとした会話が成り立つ、私の気分を害さないその警察官の話しぶりに感心しました。私はもっときつく絞られると思っていましたが、あれだけの暴力事件でも粛々と聴取されると、自分の行いが恥ずかしくなります。もうこの後どうなってもいいと思っていましたが、それより反省するべきだと気付かされました。
この時点で当事案は捜査中、どちらがどうとかは、まだ決まってなかったらしい。(私が加害者に決まってますが)結果、この警察官に優しく説教され、家に帰されました。
妻には本当に申し訳ないことをしたと思います。さぞ怒ってるだろうと思いきや、あの婦人警官と話が弾み・・・(ちなみにこの婦警さんは、後々、妻と台湾旅行に行くほどの仲良しに)
そして、婦警さんから被害者の事情聴取の様子を聞いたようで、それによると・・・
被害者が病院で治療を受けたあと、その病院から警察に薬物使用の疑いがあることが通告されたそうです。その彼が包帯姿で警察署に出頭して来たにも拘わらず、私を「逮捕しろ!」と大声でで喚き、警察官数人が取り押さえる一幕があったらしい。そして薬物検査の結果、何かの薬物使用が認められたそうです。
また、110番した後続車の男性が、私が前の信号で首根っこ掴まれていたことを証言してくれていたおかげで、先に手を出したのは相手の方で、その交差点のガソリンスタンドの従業員もそれを見ていたそう。それで私の扱いが急に良くなったのかって解りました。
でも決して私の行動が正当化される話ではありません。相手には大けがをさせてしまっています。そのけがは全治1か月でした。
後日、私は付き合いのあった弁護士に相談しました。それで示談を勧められ、念書を書いてくれました。示談金は治療費、休業補償、慰謝料込みの50万円。妥当な金額だそうです。相手はすぐに示談に応じて、この暴行致傷罪は立件されませんでした。
こんな告白をしながら説得力ないけど、今なら、喧嘩したら絶対ダメって言える。自分は喧嘩が強いって、意味のない自信を持っていたことで、こんなことになってしまったんです。
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子供の喧嘩、その暴力もよくないけど、大人になればそれは暴行罪。
暴力には、いい悪いの境界線なんかない。
娘を叩いてこのことを思い出しました。
終わり
作品名:コントロールされた暴力 作家名:亨利(ヘンリー)