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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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コントロールされた暴力

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中学生のオレの暴力



 中学に入ると事情は変わるのだ。当時は、不良、ツッパリ全盛の時代。先輩は絶対で、オレらは何をされても我慢しなくてはいけない。

「木田! グラウンド10周して来い!」
 「ハイ!」

「腕立て100回連続!!」
 「ハイ!!」

「夕方まで空椅子!!!」
 「ハイ!!!」

 クラブでは毎日しごきに遭う。コーチもこれを容認していた。どんな不条理な注文にも、言い返すことなんかできるはずがない。先輩は体が大きく、みんな座った眼で睨んでいるから。
 体操服の中に、猛毒の毛虫を入れられた部員もいる。オレも腕に載せられた。刺すような痛みの後、焼けるように熱くなり、患部はミミズ腫れになる。桜の木に付いた黄緑色のイラガの幼虫だ。今だったら十分犯罪と思えることだし、大けがになることもある。

 周辺の中学校同士の対立も激しく、近くの神社の境内で典型的な決闘と称した喧嘩があって、新聞沙汰にもなっていた。
 そんな地域で育ったオレは中一の時、不良グループ10人くらいに囲まれて、集団リンチを受けたことがある。理由は女子の取り合い。

??? 取り合い? それは違うと思う。

 それは全くの誤解で、理由を説明するとバカな話だ。オレのことが好きだという女子が、
「木田君は誰が好きなの?」
などと、しつこく聞いてくるから、その頃人気だったアイドルの名前を答えた。すると、
「それじゃ、8組の木村のことどう思う?」
学年にそのアイドルそっくりって評判の生徒がいるって言う。まだ入学したてだったから、他のクラスの生徒をよく知らなかったオレは、その女子生徒を見に行った。

「ちょっと似てる」
 迂闊にも嬉しそうにそう言ってしまったら、そのセリフが波紋を呼んだ。

 すぐにオレがそのアイドル似の生徒に惚れたという噂が持ち上がり、その相手も興味本位でオレを見に来てしまった。廊下から覗いてオレを確認して、照れ笑いしてる姿に気付いた。周囲の生徒もそれを目撃した。正直、まんざらでもない気分だった。
 そこからその噂は、尾ひれはひれ付いてどんどん広まっていくが、その女子生徒はサッカー部所属の不良の彼女だったらしい。
 ある日、教室にサッカー部のワルたちがやって来て、オレはボコボコにされた。次の日休まないといけないくらい、ズタボロになった。
 オレのことを好きだと言っていた女子は、それを遠巻きに見ていたのに、喧嘩の仲裁にも、けがの介助にさえ来なかった。

 でもこの経験が元になって、以降は多少殴られたり蹴られたりするくらいじゃ、なんとも思わなくなってしまった。バスケ部だったオレは、背がどんどん高くなって、中三になる頃には175センチに達していた。体力もしごきで鍛えられたおかげで、腕力も急成長した。だからいじめられるようなことは一切なく、リンチしたサッカー部までオレに一目置くようになった。何故なら、やるかやられるかって言う環境の中、オレは喧嘩がメチャクチャ強くなったからだ。