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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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博士の自宅は、町中にある小さな建物だった。大きな鉄の扉が一枚付いているだけの、町工場のような佇まいだ。私とターカスは、その前にある空き地に立っている。空き地には、ボロボロになったロボットが積み上げてあり、どれもメモのような札が付いていた。

扉の中からは、何かを強く叩きつける、ガンガンという音が聴こえ続けている。

“博士はご自分の事を「ロボットのお医者さん」と仰っていたし、修理工のような事をしているのだろうか?”

他に出入口は見つからなかったので、鉄の扉を少し強めにノックして、声を掛けた。

「博士!ラロ・バチスタ博士!ホーミュリア家の者です!お約束で伺いました!」

ガンガンという音に負けないように叫ぶと、少しして、音が止んだ。そして中からドタタタッと足音がして、すぐに鉄扉がガラガラと上がる。

現れたのは、ゴーグルをして、何やら長い鉄製の道具を持った老人だった。老人は白髪をちぢれさせ、小柄な体を作業着で包んでいて、ゴーグルの向こうからは、丸くピカピカ光る目が覗いていた。

「おお!来たか来たか!まあ入んなさい!ちょっとしたらお茶を淹れさせよう!おーい!イズミ!イズミ!」

博士は、私達と喋っているかと思いきや、工場のようになっている自宅の奥へと叫び始めた。

私達がどうしたらいいか迷っている間に、少年のような姿をしたロボットが現れる。彼が“イズミ”らしい。

「博士、お客様ですか」

イズミは私達を見て会釈をしてくれて、博士から用を言付かると、そのまま奥へ引っ込んでいく。博士と私達はイズミについていって、作業場と思しき場所を抜け、キッチンへ通された。

「まあ座んなさい。君らの家のようにはいかなくてすまないね」

「いいえ、とんでもない。お招きに感謝致します」

私は博士の謙遜にお礼を返し、ターカスは黙って座っていた。

ターカスは、どうやら自分がここに連れて来られる事にはあまり納得していないようだったし、仕方ないかもいれない。

その時、イズミがお茶を差し出してくれた。

「粗茶ですが」

「有難うございます。頂きます」

イズミはお盆を抱いてウインクすると、こう言った。

「お茶ではないです。オイルですよ。体が良くなります」

私は、飲み慣れてはいるけど、お茶が必要な訳ではない。だからいつも、体の中から取り出すのに苦労していたが、ここに居る人はそれを重々承知らしかった。オイルは確かに、ロボットが経口摂取をして身体に行き渡らせる事で、動きを滑らに保てる物だ。

「それは有難い」

そこへ、待ちきれなかったのか、博士が話を始めた。それは、思いもよらない話だった。

「さて本題に入ろう。ターカスは、私が設計をした」

「えっ…?」

私はびっくりして声を上げてしまい、それまで興味がなさそうだったターカスも、博士に注目し始めた。博士はこう続ける。

「いや、違うな。“ターカス”を植え付けるロボット自体の設計は私が行った。この型のロボット達は、私の手によって生み出されたのだ」

その時、イズミが博士の分として、本物のお茶を差し出したので、博士は片手間に「有難う」を言って、一口だけ飲んだ。そしてまた話し始める。

「まあそれで儂は、「戦争ロボット設計者」など言われて、工学者界隈からはつまはじきにされ、こうして修理工をやって身を立てているんだが…まあそんな事はいい」

思いもよらない博士の身の上話に少し複雑な気持ちになったが、工学者が何を望まれるのかが変わっていく事は分かっていた。博士は段々と首を下げて私達をしっかり見据えて、話していた。

「ターカスを作り上げるためには、私が用意したロボットではもちろん不完全だ。君達は知っているかね?ターカスには、常に成長し続ける自我があったと?」

私は、“ターカスについて聞いていた話よりも、もう少し先を行くようだ”と思った。だけど、一応「はい」と言った。博士は大きく頷く。

「よろしい。それでは、ここで君達に、絶対に口外して欲しくない話をしなければならない。いや、何もこれを話さなくても、ターカスの中を見れば、修理が可能か不可能かは分かるが、君達には知る権利くらいあるだろう…」

私は気になったが、博士はなぜかその時だけ黙り込んでしまって、なかなか言いたがらなかった。だから私は少し急かす。

「どういった事なのです。博士」

博士はお茶をもう一口ずずっと啜ってから、溜息混じりにこう言った。

「ターカスには、亡くなったヘラ嬢の弟君の脳の一部が移植されていたんだ」