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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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その通信が繋がったのは、私が連絡を取ろうと苦心し始めた、翌朝の事だった。

軍内部に居る人間と通信をするのは、一般市民は禁じられている。それは機密を漏らさないためだ。だから、初めはどんなに事情を説明しても、聞き入れてもらえなかった。

でも私は、軍に所属している間にターカスに何かがあったのだと思い、なんとかメキシコ自治区軍と連絡を取ろうとした。

通信は何度も勝手に切られ、その内に保留音が流れるだけになったら窓口を変えて連絡をした。


「でも、こちらのロボットは元々戦術兵器なのですよ!それが前と様子が変わったようだと知ったら、貴方方もご興味がおありなのではないですか!?」

私が思わず語気を強めてそう言った時、窓口応対AIはやっと、「承知しました。それでは、ロボットの型番をお教え下さい。こちらでお調べして、後からご連絡致します」と言った。私がそれに応じると、すぐに通信は切れた。




お嬢様は、お部屋で泣き続けている。ターカスは、お嬢様の朝食を作っているだろう。お嬢様は、お食べになるだろうか?


思った通り、お嬢様はAM10時になっても部屋から出てこず、私がベッドの傍へ寄って行ったら枕を投げつけられた。

「出て行って!」泣き腫らした目を布団で隠して、お嬢様はそう叫んだ。


仕方なく私は食事室に行き、お嬢様のテーブルに食事を並べていたターカスに、事情を説明した。それなのに、ターカスは大して心配する風でもなく、「それでは、これらは廃棄としますか?」などと聞いてきたのだ。私は混乱さえした。

「ターカス。一体どうしたのです?お嬢様が臥せっていらっしゃるのですよ?」

そう言うと、ターカスは食器と皿をワゴンに片付けながら、私を振り向かずこう言う。

「ええ。ご心配な事です」

“どうしたんだ…?本当に、別人のようだ…”

私はそのままそこに立ち尽くしてしまい、皿を片付け終わってワゴンを押し、部屋を出て行くターカスを見送った。




ほどなくして、一人の来客があった。

その日、久しぶりに玄関のセンサーが働き、私達は急な来客に大わらわになった。

「はい、どちら様でしょうか?」

そう聞くと、センサー前に立った背の高い男性がカメラの方を向く。強い目の光がこちらを見据えていた。

“問い合わせに答えに来た。ターカスの話をしよう”

私はその言葉に、一も二もなく、玄関のパスコードをキーボードに入力した。



その人は思った通り、軍の人間だった。「ロペス中将だ」と名乗り、彼はソファに掛けている。ターカスがその前にお茶を出した時、中将はちらっとターカスを見たけど、彼は不満そうに溜息を吐いた。

私は、空気の切れ目から、躊躇いながらも話を始める。

「中将は、何をご存知なのでしょうか…?お聴きしてよろしいお話なのでしょうか…?」

そう言うと、中将はゆったりとソファに背を預け、葉巻に火を点けた。私は、お嬢様のために葉巻はご遠慮願いたかったけど、その場は黙っていた。すると、中将はこう言ったのだ。

「いいや。実は、なーんにも知らねえ」

「えっ…」

私が置いてきぼりを食って唖然としていると、中将は大笑いして見せる。

「アハハハ…すまん」

“結局、無駄骨だったか…”

私はもう意気消沈して下を向いていたけど、目の前のテーブルに、中将が身を乗り出したらしい影が見えたので、顔を上げた。

中将は、ごく真剣な顔をして、こちらを見ていた。それはこちらが気圧される程だった。

「俺の見た限りでの話なら出来る。それでいいか?」

そう聞かれたので、私は少し元気を出して、「ええ」と頷いた。