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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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「ターカス!お帰りなさい!よかったわ、ちゃんと帰ってきたのね!どこも壊れてない?」

私は、マリセルと一緒に帰った自宅でターカスを迎え、嬉しくて嬉しくて、切なくて仕方なかった。

“戦争は終わったし、ターカスも帰ってきたわ!これで大丈夫なのよ!”

有頂天に喜びばかりが溢れて苦しく、私はターカスをぎゅうっと抱き締めて彼の胸に額を擦り付ける。

「有難うございますお嬢様。わたくしは大丈夫でございます。長く家を空けて申し訳ございません」

“ああ、ターカスよ。ターカスの声だわ…!”

私はとうとう泣いてしまって、ターカスは私の涙が止まるまで、傍に居てくれた。



それからしばらくして、私は妙な事に気づいた。

それはある日、私が、戦争によって爆撃された街の復興していく様子を映し出すメディアを開いていた時だった。

「まあ…酷い事…ターカス、大丈夫よね?みんな、元に戻るわよね?」

あまりに打ち壊され尽くした街々の様子に、私がターカスを振り返ると、彼は私を見もせずにこう言った。

「ええ、大丈夫でしょう」

その時彼は、私が着替えたドレスを抱え、部屋を出て行くところだった。

その時の違和感は、言葉にすらならなかったけど、そんな風に、ターカスが仕事に掛かり切りになって、私を構ってくれない事は何度もあった。


“おかしいわ…最近のターカスは、なんだかよそよそしくなって、あまりわたくしに親しくしてくれない…何かあったのかしら?”

私はその事を、何度かターカスに聞いてみた。でも、いつもターカスは家の仕事に追われていて、私の話など聞いてくれなかった。それで私の不安は、段々と、「疑い」と呼べる程にまで濃くなっていった。



その日、ターカスは、掃除をするため体を扁平に変形させ、腹側に大きなモップを着けて、壁を走り回っていた。

「ねえ、ターカス…」

彼はすぐに答える。

「お嬢様、申し訳ございません。このお掃除が終わりましたら、お話をお聞き致します」

私は口を結んで悲しみに耐え、最後の気力を振り絞って冷静になり、こう言った。

「どうして、わたくしの話を聴いてくれないの…?ターカス…」

それには、こんな言葉が返ってきた。彼は知らずに、私の心を引き裂いてしまった。

「お嬢様、少々の間です。お待ち下さい」

壁を磨くのに熱中しているような様子のターカスを、私は背中から睨みつけた。彼は私の視線になんか気づかない。落ちにくい汚れには苦労するのに、彼は私の悲しみになんか気づかない。そんなはず、ないわ!

“違う…!ターカスじゃないわ!”

私は、自分が何を言うのか分かっていた。そして、それをターカスが聴かないだろう事も。でも、“彼が何も気にしないなら、これくらい言ってもいいはずだわ!”と、私はほとんど生まれて初めて、激しい怒りを感じていた。

お腹が震える。喉も。上手く声が出るか分からない。そんな状態で、私は叫んだ。ちょうどその時、部屋にマリセルが入ってきたのを、私は目の端で見た。

「あなたは…あなたはターカスなんかじゃないわ!違うわ!あなたはターカスじゃない!別人よ!」