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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第41話 ロボットたる理由





私とエリックは連れ立って飛行して、エリックは「ある施設を目指している」と言っていた。

彼は飛行が出来るようになり、兵器として生まれ変わらされてはいるものの、自分の意思は自由なのだと言った。「兵器として」というのには驚いたが、これで二人で逃げ出せば私達は自由だと思えた。



そこは小麦畑の真ん中だった。その時私は、ちらっと思い出した。エリックの主人が亡くなった思惑は、政府が食糧問題を解決するためだったと彼が語った事を。

「さあ着いたぜ。中に入ろう」

「エリック。ここは何なのです?」

「いいじゃないか。俺達は自由だ。まずは話でもしよう」

「え、ええ…」

私はなぜか不安になった。だが、エリックの様子は前と変わらないし、別にいかがわしい場所に連れて来られたとは思わなかった。


その施設に入るには、分厚く大きな、三人は並んで通れそうな扉をくぐらなければいけなかった。そして長くて薄暗い廊下を通る。

廊下の両側にある部屋には人気がなく、話し声もしない。でも扉が全て鉄で出来ていて、認証をしなければ入れなさそうだと思ったので、“何かの研究施設だろうか”と私は考えていた。

やがて廊下を曲がり奥の扉を開けると、途端に景色が真っ白になった。

広いホールの先には幅の広い階段が見え、そこには白い絨毯が敷いてある。床の全面にだ。壁も白く、不気味なほど明るい空間だった。

「エリック、ここは誰かの家なのですか?ずいぶんと奇妙な所ですね」

「ああ、そうだな」

エリックは質問に答えてくれなかった。私はそれで、小さかった不安がさあっと胸を染め尽くすのを感じて、少し立ち止まる。エリックはすぐに振り向いて手招きした。

「どうした。来いよ」

私は何を言えばいいのか分からなかったが、とにかくメキシコに帰ってもいいか聞こうと思った。

「エリック…わたくしはメキシコに帰りたいのです」

エリックは首を傾げ、納得したように頷いた。

「そうだな。でも帰るためにはやらなきゃならない事があるだろう。軍のロボットが一般家庭へ帰れると思うのか?」

そう言ってエリックは笑っていた。私は“確かにそうだ”と思い、“この研究施設で私を元に戻してくれるんだな”と彼についていった。



その部屋には誰も居ないように見えた。初めは白い照明が部屋全体をうっすらと照らしている様子が分かり、次に部屋の奥にたくさんの古い物理モニターが設置してあるのが分かった。最後に気が付いたのは、物理モニターの前に小さな椅子があって、そこに老人が腰かけていた事だ。

私は訳を問うつもりでエリックを見た。彼は黙って頷き、老人に手のひらを向けて、私にそちらに進むよう促した。

気が進まないながらも怖々と老人の前に歩み寄ると、私はその顔を見る。彼は恐ろしく背が小さく小柄で、もう90歳位に見えた。

「ごきげんよう。ターカス」

老人はしわがれて今にも絶えそうな声でそう言い、にっこりと笑った。その微笑みに私も少し警戒心を解く。

“この人が優秀なロボット工学者で、私を元に戻してくれるのだろうか”

「私はね、デイヴィッド・オールドマンと言う。君の御父上と同じロボット工学者じゃよ」

「えっ?」

私はその時言われた事の意味がよく分からなかった。私はメイドロボットだ。父など居ない。老人は私の様子を見てちょっと咳払いをしてこう言い直した。

「いやいや済まない。父ではないな。主人か。ダガーリア氏がまだ企業の一開発者だった頃には、よく成績を争ったものじゃよ」

「そう、だったのですか…」

オールドマン氏は人の好さそうな笑い方をして、傍にあった修復台に乗るようにと促した。私は言われるがままにそこへ横になる。オールドマン氏は私の両腕両脚を外しながらこう言った。

「君のプログラムは、この世で最も優れたロボット工学者が書いたものじゃ。よく勉強させてもらうよ」

「え、ええ…」

そこで急にオールドマン氏の両目はギラリと光った。彼は私を覗き込み、今にも笑いそうになるのを抑えているような顔をする。その目は爛々と光った。

「ダガーリアの技術を手に入れられれば、私の地位も盤石だ」

その時私は、「待ってくれ」と言おうとした。エリックがどんな顔をしているのか、一体彼は何のために私をここに連れて来たのか、もう一度聞こうとした。でも、沈黙へ向かう私のスケプシ回路はもう動いてはくれなかった。