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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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その部屋には、誰も居ないように見えた。初めは、白い照明が部屋全体をうっすらと照らしている様子が分かり、次に、部屋の奥にたくさんの古い物理モニターが設置してあるのが分かった。最後に気が付いたのは、物理モニターの前に小さな椅子があって、そこに老人が腰かけていた事だ。

私は、訳を問うつもりでエリックを見た。彼は黙って頷き、老人に手のひらを向けて、私に、そちらに進むよう促した。

気が進まないながらも怖々と老人の前に歩み寄ると、私はその顔を見る。彼は恐ろしく背が小さく、小柄で、もう90歳位に見えた。

「ごきげんよう。ターカス」

老人は、しわがれて今にも絶えそうな声でそう言い、にっこりと笑った。その微笑みに、私も少し警戒心を解く。

“この人が優秀なロボット工学者で、私を元に戻してくれるのだろうか”

「私はね、デイヴィッド・オールドマンと言う。君の御父上と同じ、ロボット工学者じゃよ」

「えっ?」

私は、その時言われた事の意味がよく分からなかった。私はメイドロボットだ。父など居ない。老人は私の様子を見て、ちょっと咳払いをしてこう言い直した。

「いやいや済まない。父ではないな。主人か。ダガーリア氏がまだ企業の一開発者だった頃には、よく成績を争ったものじゃよ」

「そう、だったのですか…」

オールドマン氏は人の好さそうな笑い方をして、傍にあった修復台に乗るようにと促した。私は言われるがままにそこへ横になる。オールドマン氏は、私の両腕両脚を外しながら、こう言った。

「君のプログラムは、この世で最も優れたロボット工学者が書いたものじゃ。よく勉強させてもらうよ」

「え、ええ…」

そこで急にオールドマン氏の両目はギラリと光った。彼は私を覗き込み、今にも笑いそうになるのを抑えているような顔をする。その目は、爛々と光った。

「ダガーリアの技術を手に入れられれば、私の地位も盤石だ」

その時私は、「待ってくれ」と言おうとした。エリックがどんな顔をしているのか、一体彼は何のために私をここに連れて来たのか、もう一度聞こうとした。でも、沈黙へ向かう私のスケプシ回路は、もう動いてはくれなかった。




「エリックよ。君は、主人を私の組織に殺された」

俺は、オールドマンがそう言うのを聞いていた。そしてこう返す。

「今となっては、どうでもいい事ですよ」

オールドマンがターカスのプログラムを確かめながら、「ヒヒッ」と笑った。

「そうじゃ、そうじゃ。ロボットとは、本来は人間に絶対の服従をするものじゃ。それがこいつはそうではない。自由意志を持つロボットが、一般家庭でただメイドとして使われているなんて、誰も考えつきはせん」

「見世物にでもしようってんですか」

そう言うと、オールドマンはこちらを向いて、ニヒヒ、と笑った。

「永遠に廃棄するのじゃ」

「へえ。意外だ」

不敵に笑っていたオールドマンは、その内に悔し気に顔を歪め、僅かに開けた唇の隙間からは、食いしばった歯が見えていた。

「ダガーリアより、私の方が優秀だ!だから私は、穀物メジャーからも、工学者として優遇された!奴の研究は、不利益な物だったんだ!」

そう叫びながら、オールドマンはターカスを次々に分解していた。

俺は「どうぞご勝手に」と言った。