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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第39話 開戦






「よし。お前達には全員、軍曹の地位を与える。前線で班を引っ張ってもらう事になる。それから、兵器ロボットの操作は出来るな?」

これ以上に気まずい気持ちなど、今までなかった。「ええ」と答えた私は、まるで別人ではないかと思った。

“メキシコを守るため…お嬢様をお守りするため…”

右端から順に作戦の指示を出して、ロペス中将は最後に、一番左に立っていた私の前に来た。

「ターカス、お前には、合衆自治区ニューヨークシティにて、爆撃をしてもらう。ここだ」

そう言って中将は仮想ウィンドウの地図をこちらに向ける。

「あちらの住人が避難所へと向かう所を、焼き払って欲しい」

“そんな卑怯な!”

どれほどそう言いたかったか知れない。だが、私はすでに兵士となる事を承服した。今さらゴタゴタと文句など言えないのだ。

「それからもう一つ。13人がもう一度集まってから、合衆自治区の司令部、ホワイトハウスを攻撃する。人民に被害が出て、司令部を破壊すれば、降伏するだろう」

“ああ…私はそれを止めたばかりだと言うのに…”

下を向いていた時、ロペス中将が私のカマーベストをちょっと引っ張り、「これは頂けないな、ターカス。私の服を貸そう」と言った。中将は少しの間、部屋を出た。


私が居る部屋の中には、私と同じ型の兵器がみんな集められていた。彼らはそれぞれ、武器となるロボット操作のためにシステムを起動させたり、地図を仮想ウィンドウで出して、自分の見やすい位置に設定したりしていた。

“彼らは全く不服ではないらしい…違和感を覚えているのは、私だけ…”

私は、不可解な気持ちになった。


自分は、ごく当たり前のメイドロボットとして、戦争に反対したと思っていた。でも、ロペス中将も私の事を「通告に従わない事が出来るロボット」と言っていたし、私はどこか特異なのだろう。

“避難する前の住民を惨殺など…”

私は“今の内に逃げてしまおうか”と考え掛けたが、そうすれば、武力が減り、敗戦となるかもしれない。それでは何にもならない。

“私の気持ちを分かってくれる者は居ない…みんな当たり前に戦争をしようとしている…なぜ私だけ、こんな風に思うのだろう…でも、本当ならこうなるはずなのに…”


その時、また部屋の扉が開いて、中将が戻ってきた。

「ほら、これを着ろ」

そう言って渡されたのは、ヴィンテージ調のコートだった。名前ももう憶えていないが、首からふくらはぎの中程までに生地をストンと落とし、首元だけを留めるタイプだ。

“中将はヴィンテージが好きなのか”

「ありがとうございます」

私は仕方なくカマーベストとスラックスを脱ぎ、コートを羽織った。

「ヘヘ。様になるな、最終兵器よ」

“兵器…私はここでは、兵器としての価値しかない…”

何もかもが私を追い詰める。でも、やるしかないのだ。


「では、全員で移動してもらう。途中、奴さんがお前達を逐一ミサイルで狙うだろうし、爆撃機で狙撃されるだろう。全員避けろ。本部には、私の他に3人の参謀が居る。指定された地に着いたら速やかに報告し、状況が変わっていなければ作戦決行だ。もしこちらに大きな動きがあれば、すぐに呼び戻す。まだないとは思うけどな」

その言葉には、元気よく返事をした者がほとんどだった。私は、いつまでも下を向いていられないと思い、顔を上げる。

「では行け!屋上からの飛行だ!」




まるで虫が地面を蠢くように、人々が地上を逃げ惑っている。私は、その上空200メートル程を飛びながら、地上へ向けて熱線を発射しようとしていた。成功すれば、半径50メートルが灰になる。

“自分はなんて恐ろしい事を!”

そう思って躊躇っていたが、いよいよ覚悟を決め、右手のひらを開き、私はそれを人々に向けた。その時だ。

“なぜそんな事をするの!ターカス!いけないわ!”

お嬢様が耳元でそう言っているような気がした。それで私は一瞬の判断が遅れ、近づいてくるエネルギー体の振動音を聴き逃してしまった。


気が付いた時、私は、動けない体を地上に横たえ、傍で誰かが話しているのを聴いていた。それから、耳元でロペス中将の怒鳴り声がする。

“ターカス!返事をしろ!何がどうなってる!”

私のスケプシ回路はまた停止し、私は真っ暗闇の中で完全に沈黙した。