メイドロボットターカス
「なあ、銭形さん。アンタはどこなんだ?」
俺は、前を歩く銭形にそう聞いた。
銭形は、完全な戦闘用兵器だ。今回の開戦にも、関わるに違いない。
“おそらく合衆自治区に呼ばれたんだろうな”と俺は思った。銭形からは、素っ気なくこう返ってくる。
「秘匿事項だ」
“やっぱりか”
俺達は、ポリスメキシコ自治区支部の職員だ。その俺達に言えないとなれば、要は銭形は「戦う相手」なのだろう。
もちろん、俺達はポリスの職員なのだから、戦闘に参加などしない。自治区内での、住民の警護に当たる。でも、銭形には充分過ぎるほどの戦闘力がある。どこかで出くわせば、俺達は真っ先に破壊されるだろうと思った。
「アームストロングさん、アンタは?」
アームストロングは、合衆自治区にある、ポリス本部の職員だ。もしやと思っていた。
「その質問に答える義務はない」
“アンタもかよ”
多分こちらは、アメリカでの何らかの任務に就くんだろう。戦闘ではないにしても。
俺達はその時、ホーミュリア家の敷地に停まっていた3つのシップの内、2つに分けて乗り込み、黙って別れた。
ポリス専用艇を操縦するロボットは、「シートベルトをお締め下さい」と愛想のない声で言う。俺は、横に居たシルバにこう聞いた。
「銭形は前線か」
「おそらく」
「俺のところには、住民の保護を自治区A地帯でするよう通告が来た」
「僕は、市民に向けての情報収集班へ、参加が義務付けられました」
「…そうか」
シップが飛び立ち、ふわりと浮遊する感覚に、俺は身を任せていた。
「お嬢様、わたくしは給水所でお水をもらって参ります。マリセル、少しの間、ここを頼みます」
「わかりました、ターカス」
「お願いね」
避難所の人込みの中でも住民が疲れないようにと、それぞれ割り当てられた面には高い衝立が立て回してあり、私はタンクを抱えてそこを出た。その時だ。
私の前からは、見知らぬ背の高い男性が歩いてきた。彼は、私の行く道を塞ぐように、目の前に立つ。
「君が、ターカスだな?」
そう聞かれて彼を見ながら、「ええ、そうですが」と返す。私ははっと気づいた。
彼は、軍人が着るような折り目正しいスーツを着込んでいた。胸元に勲章はないが、階級を表すバッジが付いている。
彼は、スーツの胸元から、黙って懐中時計を出した。どうやらそれは、通信端末をアンティーク調に作った物のようだ。ずいぶんと高価そうだった。彼の端末からは、私の設計図がホログラムで示される。私は驚いた。
「一体何の御用です?あなたはどちらの方なのですか?」
彼は私を見詰め、こう言い放った。
「私は、メキシコ自治区軍、中将の、ダグラス・ロペスだ。君を徴用に来た。君にはこれから、前線へ行ってもらう。これは義務だ。手を差し出したまえ」
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎