メイドロボットターカス
「メキシコ自治区に進軍だって!?」
メルバが頓狂な声で叫ぶ。アームストロング氏は「続けて」と先を促した。
私は「合衆自治区がメキシコ自治区へ、開戦を宣言しようとしています」と話し始めた所だった。
「私をさらったのは“エリック”というロボットでした。エリックの主人はポリスで個人データを管理する職員でした」
「そこまでは調べがついています。その先は?」
そう言ったのは白い髪の少年だった。彼は“シルバ”と名乗った。
「偶然にデータの改ざんを発見し、そしてその内にポリスが合衆自治区へ兵器を売り渡している事を突き止めました」
「“エリック”が消えたのは、それを止めるためか?」
「ええそうです。ですが彼は合衆自治区大統領を殺害する事でそれを防ごうとしました」
「おい、そんな事…!」
メルバはソファから腰を浮かせてまで驚いていた。
「させませんでした。わたくしはエリックを破壊し、彼は全壊しました」
その場は沈黙したが、アームストロング氏がこう言う。
「安心しなさい。君のその行いを罪に数える事は我々はしない」
私はそれを聞いてもちっとも満足に思えなかった。
「エリックが明らかにしたのはそれだけではありません。私は実際に潜入して確かめましたが、ポリスのグスタフ氏が合衆自治区とコンタクトを取っていて、兵器を融通し、それから世界連からもキャッシュを受け取っていたのです」
そこで銭形氏が、片手を顔の前に浮かせ、慎重にこう聞いた。
「それは…もしかして、マルメラードフからか?」
私が頷くと、彼らは全員身を引き、大いに驚いたようだった。その時だ。
ウー!ウー!という警報音が屋敷中に鳴り響いた。続いて機械音声のアナウンスがこう告げる。それは公共情報をいち早く受け取るシステムからだった。
“合衆自治区がメキシコ自治区へ開戦を宣言しました。住民はただちに指定された場所へ避難して下さい。合衆自治区がメキシコ自治区へ開戦を宣言しました。住民はただちに指定された場所へ避難して下さい”
「ちくしょう!」アームストロング氏は叫んで自分の膝を殴る。そして彼は立ち上がった。私はお嬢様の元へ駆け寄る。
「ターカス…」
話を聞いて混乱していた様子だったお嬢様は、精一杯不安そうにこちらを見詰める。私はお嬢様に笑って見せた。
「大丈夫でございますお嬢様。きっとお守り致します」
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎