メイドロボットターカス
第33話 不自然なケース
「エリック。あえてホワイトハウスを狙うのはなぜです?大統領が外出したところの方が、楽じゃありませんか」
「奴らがぐっすり休んでいるところをガツンとやった方が、気分がいいからさ」
「本当にやるのですか?まだ戻れるのですよ?充分にやりようがあるのです」
「くどいなお前は。ないよ。俺にとっては、道はこれだけだ」
私達はまた押し問答をして、結局ホワイトハウスへ向けて移動する事になってしまった。
メルバはもう一度私と組んで、今度はマクスタイン氏の住んでいた家へ赴き、何か証拠のないものか、探っていた。
「まあ、捜査本部が探して無かった物を、俺達に見つけられるわけもない、か…」
そう言いながら、メルバは床の下足痕をスキャンし、空気中の残留物を分析していた。
私は戦闘用ロボットなのでそのような事は出来ず、慎重にくまなく周囲を観察していた。そして、一つ気づいた事があった。
「おかしいな」
そこはマクスタイン氏の仕事部屋だったので、そのデスクには仮想コンピューター端末が置かれているはずだった。シルバと同じような、サイコロ型の物が。
でも、死後にどこかへしまいこんだのかもしれないと思い、私はとりあえず、デスクの中で、鍵の掛かっていない引き出しを開けた。そこには、何も入っていなかった。
引き出しに何もないとは妙だなと思って、鍵の掛かった方を、突っかかって開けられないだろうと思いながらも引くと、意外にもそれは、すんなり開いた。でも、そこにも何もなかった。
私は後ろを振り向いた。するとメルバは床の痕をさらおうとしていたので、こう声を掛ける。
「メルバ、どうだ」
メルバは振り向いてこちらを見た。
「この家には、捜査本部の人間が15人入ってきている。中にはロボットも居たみたいだけど、それは多分、この家に元から居た“エリック”だろう」
私はメルバに近寄り、彼が照射したセンサーライトで照らされた床を見た。
人間の靴跡は大層絡み合っていて判然としなかったが、部屋の中を縦横無尽に歩き回った痕のようだった。
「一応この足跡をシルバに送って、データを特定させるよ」
メルバは何気なくそう言って、こめかみに手を当てていた。彼の目の奥が、写真を撮るように僅かに動いているのが分かった。それを確かめた後、私は、メルバと話をする。
「マクスタイン氏に、遺族は?」
「居ないはずだぞ」
「それなら、なおさらおかしい」
「何が」
私は、ちらとデスクを振り返った。
「この部屋からは、おそらく何かが持ち去られている。それも、重要な何かが」
「はあ?デスクをこじ開けた痕でも?」
「いいや、ない。だが、引き出しには何もなく、端末も残っていなかった。それに、鍵が掛かるはずのところも、何も入っていなかった。ただ、あのデスクでマクスタイン氏が仕事をしていたのは、確かのはずだ。死ぬ前にマクスタイン氏がそれらを片付けたとするのは不自然だ。事件性があるなら、誰かがそれを持ち去ったと考える方が、より理解しやすい」
私がそう言った時、メルバはピンときて目を見開いたが、それを収め、瞼を寝かせると、「それもそうだな」とだけ言った。
「それで、そういう記録を、君はポリスのケース管理書で見つけたか?」
「いいや」
私は彼と、しばらく見詰め合った。彼は何も言わなかったが、やがてデスクの方を見て、目を細めていた。
「どういう事だと思う?銭形さんは」
「私は、ポリス自体がマクスタイン氏の死に関わっているか、マクスタイン氏の死に乗じて、何かを持ち去ったと考えている。その品は、ポリスに不利な物だろうとも」
「帰ろう。大体分かった」
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎