メイドロボットターカス
第3話 私のためのカレーライス
ターカスが作ってくれた家の中には、すでに家具が備え付けられえていて、ベッドの手前に白色のカーテンが渡してあった。
“どうやって作ったのかわからないけど、オート洗浄機もあるわ…部屋の中の掃除なら、ターカスはいつも「変形」して自分でやっていたけど…”
オート洗浄機は、食器も服も、家具も洗えるもので、なおかつ、家具を小さくする機能も付いているので、家の中にある大体すべてが、これ一つで洗えてしまう。
洗浄機はお父様が開発したもので、中に重力制御装置が付いており、洗浄のために必要とするのは主に水ではなく音波なので、食器も壊さずに洗うことができる。それから、洗浄機に付いてくるシートの中に家具を包んで、蓋の開いた洗浄機の上に置くと、それはあっという間にするっと縮んで、中に吸い込まれていってしまう。
音波が漏れないように蓋がロックされると、洗浄が済むまでは、大体の物でほぼ1分ほど。みたいだけど、お父様が説明してくれた複雑な作りは、私は覚えられなくて、忘れてしまった。
すると、丸型オート洗浄機に気を取られていた私に気づいたのか、ターカスはまた胸を張って思い切り笑った時の、ぎゅっとつぶったようなにこにこの目になった。
「お嬢様、それは水と木と土から元素を取り出して私が樹脂を組み直した洗浄機です。お嬢様のお召し物もそれで洗浄ができますよ。あとでわたくしがドレスもお作りいたしましょう」
「そ、そうなの。ありがとう」
“ターカスって…なんかすごい。この人、できないことなんかなかったのに、いつもわたくしたちのそばにいてくれたんだわ…”
私たちの時代、ロボットに対して「ロボット」と呼ぶのは、工業用製品のロボットだけに限られていて、心の中だけでも、名前や、「この人」などと呼んでいる。
もうロボットたちが人間の生活に溶け込んで、千年になるらしい。実はロボットが反乱を起こしたりしたこともあったらしいけど、今は私たちは仲直りして、同じように接している。メイドロボットに対しては、そりゃちょっと命令口調になってしまうけど、彼らもそれは不服ではないみたい。
それに、今では「意志のあるロボットの処遇に関する法」も整備されて、工業用ロボットはこれにあてはまらないけど、ロボットにエネルギーを与えずに動かそうとしたり、ロボットに対して直接に有害とされることをしたり、理由もなくロボットを壊そうとすると、見合った量刑が人間に課される。
“お父様は、その法整備にも関わるほど、権威あるロボット工学者であり、技術者だったわ…でも、その仕事ばかりで、私たち家族は、あまりかまってもらえなかったようにも思うけど…”
“でも、お父様は「これで理不尽に壊されるロボットは減るだろう」と言った時、とても優しいお顔をしていた…”
“その気持ちは、私にだってわかるわ”
私は洗浄機を見るのをやめて、カーテンの後ろのベッドを覗き込んだ。するとそこには、可愛らしいクマのぬいぐるみがあった。
「わっ!ターカス!これ、「ミミ」じゃない?」
「ええ、そうです。お屋敷にあった、「ミミ」を再現しました。「ミミ」のおそばなら、お嬢様もよくお休みになれるようですので。それから、テーブルに据えた椅子の高さは、このくらいでよろしかったでしょうか?」
「座ってみるわ」
ターカスは私を床に降ろしてくれたけど、私は足が上手く動かないから、一瞬、体がグラッと後ろに傾く。するとその背中をターカスが支えて、椅子に座らせてくれた。
「歩行器もお作りいたします。椅子に座って少々お待ちになってください。高さはどうでしょうか?」
「ちょうどいいわ!屋敷とおんなじね!」
「それはよかった。では2分ほどお待ちください」
ターカスが出て行ってからの2分間で、私は“そういえばここに食べるものはあるのかしら”と考えていた。
“川があるから魚はいるけど、魚は好きじゃないし…小さい頃からお父様は私が食べたがるチョコバーをよくくれたから、そのうちそればかり食べるようになってしまって、よくターカスを困らせたわ…もちろん、一食でしっかりと栄養は摂れるものだったけど…もう、それは食べられないのね…”
そして、外で聴こえていた「カキン」とか「バチン」などという音が止んだと思うと、ちょっとの間、外は静かになった。風と、木の葉のそよぐ音が聴こえていた。
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎