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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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「じゃあターカス。お前にはポリスに潜入してもらう。だから、こちらで偽のIDを用意した」

そう言ってエリックは、仮想ウィンドウをスクロールさせていた。

「偽のIDですって?そんなものがすぐに用意出来たのですか?」

「すぐに出来るわけねえだろ。充分時間を掛けたし、手間も掛かったさ。でも、元は俺の主人が管理していたデータが、ポリス職員の個人データだったんだ」

そう言って彼は、ウィンドウの中にある一つのフォルダを開いてみせた。そこには、膨大な数の、顔写真とID、肩書きや居住区などのデータが入っていた。延々と開き続ける個人フォルダを、エリックはタップしてすべて消す。

「俺は、ポリスに赴いた日にはもう自分がやりたい事が分かってた。だから、少々ちょろまかして来たんだよ。そこから、解雇された者、死亡した者と引き出し、ポリスのシステムにこっそり復帰させて、IDをまた使えるようにしたんだ」

「それはどうも、大変な事で…」

欠伸をしながら、エリックは仮想ウィンドウの中に私の写真を貼り付け、私に「手を貸せ」と言った。

私の手には、ロボットとして家庭に登録されたデータが入れられている。それを照射すれば、私が何者なのかがはっきりする。

「これを上書きしなきゃならない。センサーに手をかざしてみろ」

私はそこで、「嫌だ」と言いたかった。データが上書きされてしまえば、私は「ホーミュリア家のメイドロボット」ではなく、「ポリスの偽職員」になってしまう。でも私は、こう思い描いた。

“大いなる陰謀を止めるため…”

だんだんそんな風に自分を説得し始めていた私は、エリックがこちらに向けた手のひら型のセンサーに、おそるおそる手を伸ばす。

サーッと私の手のひらに温かい温度が伝わり、バチバチと火花が散ると、エリックは「よし」と言った。

「次の奴、来い」

エリックはもう次のロボットの相手をしていたが、私は自分の手のひらを見詰めて、もうそこにはホーミュリア家の情報がないのを思い、項垂れた。




「何するの!放して!放してよ!」

私が暴れて叫ぶと、「分かりました、放しますよ」と後ろで男の人の声がした。それは、銭形さんだった。

「あれ、銭形さん…?」

「はい、そうです」

私は一瞬、呆けたように何も分からない気持ちになり、その後で「どうしてここに居るの?」と聞いた。すると銭形さんは、私を歩行器に元のように座らせ、「それはこちらの台詞です」と言った。

「こちらはあなたを警護している訳ではないが、突然居なくなったと、マリセルが心配していたんです。早くお戻りなさい」

「あ、ああ、そうなのね。私てっきり…」

私が言った事に、銭形さんは顔を近づけてきた。彼の赤い目が、私はちょっと怖かった。

「てっきり?てっきり、なんです?」

「いいえ、なんでもないわ。じゃあ早く居間に戻りましょう」