メイドロボットターカス
私は足を元に戻してもらって、腕の磁力錠も外された。だから私は飛行や走行が出来るようになったし、腕に付いているあらゆる火器も使用可能になった。それは意外な事だった。
「エリック。私達を自由にした途端、私達があなたを害するとは思わなかったのですか?」
そう聞くと、エリックは首を半分振り向かせ、「へえ?そんな威勢があるのか?」と言っただけだった。
「まず、ポリスに潜り込む奴と、グスタフの自宅に潜り込む奴に分ける。お前らの希望は?」
エリックがそう言った時、意外にも、多くの個体が自分の希望を持っていた。中にはまだエリックを止めようとしていた者も居たし、興味がなさそうに話を聴いていなかった者も居たが。
私は、“エリックを止めなければ”とやはり感じていた。
もし成功したとして、残忍で巨大な争いは葬られるかもしれないが、それをしたエリックはきっと破壊され、貶められる。そんなのは許せない事だと思った。
「エリック。もう一度考え直して下さい。これが成功したところで、あなたは英雄ではなく、殺人犯になるだけなのですよ。私達も、一緒に証言をします」
私がそう言うと、エリックは大きなため息を吐き、こちらを見た。
「お前はまーだそんな事言ってんのか。そんなの関係ねえんだよ。そうさ、俺は殺人犯になる。そして解体されるだろう。そんなのは承知の上でやるんだ」
私はその時、大いに迷った。多分その時が、エリックを説得出来る最後のチャンスだろうと思ったからだ。
「では、どうなろうとも、グスタフを葬るのですね」
「ああ」
念には念を入れ、もう一度こう聞く。
「わたくしがその邪魔をしようとしたら、どうします」
エリックは胡坐をかいた膝に肘をついて顔を支え、私を睨みつけていた。
「お前を壊すまでだよ」
私は、居間に残ったシルバ君とマルメラードフさんの傍に居た。ずっと黙って、誰とも話をしようとしなかった。でも、私は様々に、動けなくなるまで壊されてしまったターカスの様子を何度も想像して、泣きそうなのを堪えていた。そこへ、マルメラードフさんがこう話し掛ける。
「ヘラ・フォン・ホーミュリア様、あなたは、ターカスと普段どんな風に過ごしていたんですかな?」
私は、非日常の中に差し込まれた日常に、逆に違和感を覚えながらも、質問に答える。
「どう、って…チェスをしたり、お喋りをしたりしたわ…」
「ほう!チェスを!彼は手加減をしてくれましたか?」
にこにことそう聞くマルメラードフさんに、私は「いいえ」と言って笑った。
少しだけ、元の日々のように私は笑ったけど、それもすぐに途切れてしまった。
「では…今回のように、彼が戦闘能力を有していると分かるような事は、なかったわけですね?」
私は、その質問の答えを考えた時、ターカスが私をおぶって高速で飛行していたのを思い出した。それが戦闘能力かは分からなかったけど、“きっと捜査の力になる”と思い、こう答えた。
「ターカスは…過去都市ケルンに行く時…私をおぶって高速で飛びました…摩擦でシールドの周りが光るほど、速かったわ」
「ほお、それは興味深い。まず、人を背負って周りにシールドを張るなど、戦術ロボットでない限りは出来ませんからなぁ」
唇の下に指を添えて上を向き、マルメラードフさんは何かを考えているようだった。私はその間に、シルバ君の方を向く。
「シルバ君、何か分かった?」
シルバ君は振り向かずに、こう答える。
「マクスタイン氏の死には、事件性が見られたようです。しかし、ポリスの捜査でも、結局真相は分からずじまいだったと」
「ええっ!?」私とマルメラードフさんは、同時にそう叫ぶ。
「そ、それは大変じゃないか君…」マルメラードフさんは、シルバ君のウィンドウを覗き込もうと、シルバ君の後ろに立つ。私もそうした。
「マクスタイン氏が所有していたロボットは、ポリスにも登庁しています。名前は“エリック”…もしかしたら、彼なら、僕や、ポリス内部の情報にアクセスしようと考えるかもしれません…どんな理由かは分かりませんが…」
事態はいよいよ深刻だと思えたし、私には、先がどうなってしまうのか分からなくて不安だったけど、息を詰めて、シルバ君のウィンドウを見詰めていた。
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎