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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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メイドロボットターカス

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第17話 逃げられない理由






「なあ?どうするよターカス。お前にとっては造作もない事だろう?」

片方が眼帯で隠れてはいるが、もう片方の晒された目では、彼は下衆のように笑っている。

しかし、「こいつらが帰った後なら、俺達はなんでも出来ちまう」と彼は言った。お嬢様を人質に取られている以上、私は従うしかなかった。でも、それはあまりに罪深い事だった。


“ある人物を殺すのを手伝ってくれさえすれば、令嬢には手を出さないし、お前の事も黙っておいてやるよ”


彼はそう言い、汚い笑顔を私に向けていた。

彼が言う“ある人物”とは、ひそかに武力を集め、世界にまた大戦をもたらそうとしている者だと言う。だから、眼帯をした彼は、「テロリストでもあるが、俺達はレジスタンスだ」と言った。戦争を止めるのだと。だが、そのために人を殺してもいいなどとは、絶対に言えないはずだ。それは私のスケプシ回路が許さなかった。


「…お嬢様を返して下さい」

私は、ただそう願う事しか出来ない。人殺しをした私は、お嬢様の家に帰るわけにはいかないのだから。

「返すさ。きちんとお願いを聴いてくれたらな」

私は、今度は怒って、彼をなじった。

「あなたの用いる手段はかくも卑劣です!そんな事は許されません!平和を願うなら平和的な解決しか方法はありませんよ!」

私がそう言うと、彼はまた大笑いした。

「ハハハハ!長いメイド暮らしで理屈もわからなくなったのか!ターカス!」

私が睨みつけていると、彼は私に近寄ってきて、ごく近くで私の顔を覗き込む。

「この世界にはな、言って聞かせて分かる奴と、それ以外が居るんだ。分からず屋がトップに立った時の悲惨さは、分かるな?だから俺達はそれを止めるために、手段を選んではいられねえんだよ」

呪文を唱えるかのように、神妙にそう言ってみせる彼。だが、私の心は揺らがなかった。

「あなたはやはり、ただのテロリストです」

そう言うと、彼は笑っていた。




私が家に帰ると、何人か、知らない人が家に居た。そして、マリセルは大泣きして私を抱きしめてくれた。

「お嬢様!お嬢様!ああ!ご無事で何よりでございます!」

「マリセル…」

私はその時、やっと自分のした事がなんだったのか分かった。だから、マリセルに「ごめんなさい」と謝りたかった。でもその前に、確かめておきたい事があった。

「マリセル…ターカスは?どこに居るの?」

それを聴くと、マリセルは急に俯いて脇を向いてしまった。

「ねえ、ちゃんと帰って来てるんでしょう?」

私は不安になってそう聞く。すると、居間のソファに座った、白い髪の男の子がこう言った。

「ターカスは行方不明です。フォーミュリア様」

私はそれを聴き、私を連れに来た黒いでこぼこスーツの人を振り向いて叫んだ。

「どういう事!?だってあなた、「ターカスと一緒に帰してくれる」って約束してくれたじゃない!」

私は、気まずそうに俯いているスーツの人に近寄ろうと、歩行器を動かそうとした。でも、それをマリセルが間に入って止める。

「お嬢様、落ち着いてください。ターカスは今探しているところです。きっと見つかります…」

まだ言ってやりたい事はたくさんあったけど、どうやらその人はただの警察官じゃないとは分かったし、ちょっと怖かった気持ちもあって、私はそれ以上何も言えなかった。