メイドロボットターカス
軍には戦艦と潜水艦があるが、他国からの攻め込みに隙を作らないよう、精鋭を少数で現地に向かう。この間にアメリカやロシアクリミア、国力を増してきたアルゼンチンがメキシコを奪うとも限らない。各国は必ず情報は持っているだろう。つけ入る隙を与えなければいい。最も、今度の件でそれをするのは困難だが…
俺はマリオの載った潜水艦を後ろに従えて先方を行き、マリオの後方にはあと三隻が横並びになった。
オールドマンはメキシコを手に入れることから始めるのだろうが、奴の言っていた「アメリカの長年の夢」は、それでは済まされない。ここから全世界へと手を伸ばし覆いつくすのだろう。
奴は何も夢物語を描き続けるただの老人ではない。それでは穀物メジャーの幹部研究者になんかなれないはずだ。GR-80001を二度も跳ね返すことだってできない。しかし俺は軍人だ。奴はロボットのプロだが、戦争のプロではない。そこに隙はある。
「イズミ、バチスタとホーミュリアならロボットをどう扱うと思う。データを出せ」
「彼らのパターンですね。ホーミュリアはおそらくリカバリーを増やすでしょう。バチスタはその真逆です。エネルギーを重視します」
「ずいぶん簡略化できたじゃないか」
「あれから28時間経っていますから」
「そうか。お前ならどちらの手を取る?」
イズミは2秒ほど俺を見ないような目をしていたが、すぐにこう言った。
「持久戦になるかもしれませんし、呆気なく終わるかもしれません。ですが、持久戦になった時にリカバリーが足りていなければ、そこで呆気なく終わります。軍艦には充分過ぎるエネルギーがあり、乗組員のロボットや船の装備も完璧と言えるでしょうから、今のところ足りていないのはオールドマン側のパターンかと」
「そう言うと思ったよ、やれやれ」
「どうするのです、中将」
「ああ、そのことでポリスメキシコシティ支部に連絡をしたんだがな、待て、同期のほうが早い。通信可能にしてくれ」
「ええ」
俺が手元のタブレットを操作して“シルバ”から得た情報をイズミは確認する。もっと手前でやっておかなければならなかった作業だが、オールドマンがこんなに早く見つかるとは思わなかったのだ。
「ああ、これは…」
イズミは少し渋い顔をしている。受け取った情報をいち早く運用しようとしているのだろう。彼の両手が奇妙なパターンで互い違いに動いていた。やがて彼は目を閉じて頷く。
「そうですか。これは少々手こずりますね。ですが彼のロボットは捕縛され、彼は逃走をしたのです。中将、ここは海産物や資源の保護区域です。ターカスを捕縛した時と同じ手は使えません」
「ああ、ご丁寧にちょうどな。お見通しらしい」
「そうですか。戦場を移さなければなりません。必ず一撃目を当て、次を避けましょう」
「あーわーかったわ-かった。お前な、それは俺が考えるんだよ」
「失礼しました」
よしわかった。奴の潜水艦のサイズもエネルギー規模ももう知れている。俺は下に命令を出すため、通信機器として使われている端末をこめかみに押し当てた。
“全艦隊につぐ。これより先頭の52隊は南大西洋へ向かうが、発見次第オールドマンの潜水艦を破壊もしくは攻撃する。2列目の09隊は52隊へ追走、3列目を航行する91隊93隊21隊は一時的に左後方にゆっくりと下がり、52隊と09隊とでオールドマンを挟み撃ちしろ。大規模な攻撃はここより海底マップをC632以降の南東部へ到達してからだ”
そんな命令が全乗組員の端末に伝わったはずだ。続々と通知が届き、俺の前の仮想モニターには、「了解」カウントが529映された。全乗組員に伝わった。
「では行くぞ!」
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎