メイドロボットターカス
「シルバ。データの提出は済んだのか」
私の真向かいに居たシルバは、サイコロ型の端末を胸へと収納したところだった。彼はターカスのファイルをデータベースAIへと提出し、それを完全にロックする任務をしていたところだ。
「ええ。あとはあなただけです。アームストロングさん」
「君は覚えているんだったな」
「ええ」
「でも決してもう喋らない」
「人々に不利益と思われる情報についての」
「ロックだ」
私が目に照射されたプログラムをしばし読み込んでいると、ふと目の前が晴れたような気がした。
「ああ、シルバ。終わったのか」
「ええ。心配ありません。ケースはこれにて終了です。個人情報の消去が完了しました」
私は立ち上がって体を伸ばすと、シルバを見下ろし彼に礼を言った。
「それにしても、こんなに長く君に協力してもらうことになるとはな。いやはや、ありがとう」
「僕はただ命令に従っただけです」
「君は私よりも愛想がなくて困る」
「すみません」
笑い話をして、「ヘラ・フォン・フォーミュリア誘拐事件」のメンバーは散り散りとなった。
わたくしたちはとにかくロペス中将の扱いに苦労した。彼は記憶の消去が必要ない旨を、きちんとした理論でこちらにぶつけてきたのだ。それでわたくしたちは新たに法律を作ることになってしまった。
ロペス中将曰く、旧時代の兵器ロボットについての知識を軍において役職の高い人間が忘れてしまえば、下部組織をいざとなった時に動かせなくなり、それは国家にとっての致命傷にもなる、そしてそういうロボットだったのだと申告した。その申し出はAIが飲み込んでしまったので、私たちは新たにこのような法を作った。
首相及び軍人、特に少将以上の立場の者のみ記憶消去をまぬかれるが、任を解かれる際には必ず消去を行う。情報は機密事項として管理し、怠った者は禁固刑とす。例外及び釈放、一時釈放はなし。
それは、意思のあるロボットへの処遇の法よりも前にできた、「ロボット所持に関しての法」の最後に追加された。
「あーあ。奴さん、軍の研究施設へ送られちまったよ」
俺はよっぽどそう独り言を言いたかった。しかし、どこに盗聴器が仕掛けてあるとも限らない。
マリオの話では、オールドマンは行方知れずだ。そのことはポリスに伝わっているが、権限をどこに置くかでモメてからというもの、「手柄を横取りした」軍はよく思われていない。
ほざきやがるぜ。なーにがロボットだ。権限なんてものでしみったれた争いが起きるくせに、よくも人の記憶なんていじくろうとしたもんだ。
あいつぁもう帰ってこれないだろう。しかしそれではオールドマンをとっつかまえられねぇ。明日の会議で探査役と決行部隊が決まるが…
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎