メイドロボットターカス
私が目を覚ました時、私は解体されており、傍には誰も居なかった。
オールドマンは殺され、彼の研究も根絶されたのだろう。そう信じたかった。
私はもうきちんと理解していた。自分はこれからリサイクルを禁ずる廃棄となることも、お嬢様にはもうお会いできないとも。
「お嬢様…ヘラお嬢様」
まあお目覚めね、ターカス。珍しくお寝坊さんなんだから。いらっしゃい、わたくしの朝食はこれからよ。
お嬢様がそう仰っているような気がしてならなかった。その時私は初めて自分が嫌になったような気持ちがした。
間もなく私に向かって、通路を折れ曲がり近づいてくる5つのエネルギー体を感知した。センサーが外されていないのは意外だったが、別に嬉しくもなかった。
一つは「ターカス」だった。私と同じ規模だ。それから「シルバ」。あとの3人は会ったことがないのだろうが、全員がロボットだった。むろん人間を近寄らせるはずもない。私ほど危険なロボットはないのだから。
扉が開き、2人が特に近くに寄ってきた。シルバは顔を見せなかった。隅のほうで待機しているのだろう。
ターカスの隣で私をのぞき込んでいるのが誰かは知らないが、軍の勲章を4つ、身に着けている。高価な軍用ロボットなのだろう。しかしもうそんなことを詮索する気力もなかった。
「ああ、エネルギーが戻ってしまっている。やはり水素締め出しは不可能か」
扉の近くでシルバが「音波の遮蔽よりも遥かに困難ですから」と答えた。
私は、口を開こうかどうしようかはあまり迷わなかった。これは私の遺言なのだから。
伝わりはしない。しかし、私はこう言わなければならないのだ。そう思いながら、世界一心細い気持ちをわがままで塗り替えながら、こう言った。
「お嬢様を…お嬢様の一族を責めるのはおやめください」
すぐに私は平手を食わされることになる。
「ならぬ。その君の発言で、君に人格がプログラミングされたのは明白だ」
私は最後に何を思えばいいのかわからなかった。誰かに聞こうとも思わなかった。お嬢様の顔、そしてまだご存命だった頃のダガーリア様のお顔だけを思い出し、必死に安心をしようとしていた。
「君はこれから大多数の部品を廃棄し、サンプルとなる。では落とすぞ」
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎