メイドロボットターカス
「おかえりなさい、ターカス」
「ええ、お嬢様…」
「ねえ、まずはお茶にしない?」
私が家に戻った時、ヘラお嬢様は落ち着いた様子だった。以前のように、私の態度に不満を唱えたりもしなかった。ただ、どこか悲しそうな様子に見えた。
マリセルは一歩後ろに立ち、私達がお嬢様の部屋へ入るのを見送る。私はマリセルを振り返ったが、彼は何も言ってくれなかった。
私は、バチスタ博士が亡くなった事はお嬢様に話さなかった。あまりにショッキングな光景だったからだ。14歳のお嬢様には話せない。私には話せない事が多すぎた。この数日、自分がかいくぐってきた死地を、この小さな少女には見せられない。
「ねえ、ターカス」
私が淹れた紅茶から顔を上げ、お嬢様はこちらを見る。その目はとても静かで、でもやはり悲し気だった。
「どこかへ行くのね?」
そう聞かれたので、頷いた。そうするとお嬢様はこちらへ身を乗り出し、私の頭へ手をやった。
「頑張っていらっしゃい。きっと帰ってくるのよ」
「ええ…」
分からなかった。なぜこの少女はここまで私を思いやるのだろう。私はただのロボットなのに。そう思う自分も分からなかった。
“この家は、居心地が悪い。私には、分からない事ばかりだ…”
私を優しく見詰める少女には、本当の事を言えなかった。そのまま私は、マリセルに事情を話し、軍の基地へ赴いた…。
作品名:メイドロボットターカス 作家名:桐生甘太郎