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短編集93(過去作品)

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「僕もそうだからさ。どこかに置き忘れたような気がして、気になって仕方がないんだ。君はそれほど気になっていないようだね」
「いつかは見つかるような気がしているからかしら? 本当は結構気になっているのよ」
 ウソではなかった。自分に言い聞かせるように語る言葉の一言一言が、真実のように思えてならない。
 彼が見せてくれた日記の抜けているページ、その日付は自分の抜けている日記と同じ日付だった。それを見ても今度は愕然とした気持ちにならなかった。最初から分かっていたように思うからだ。
 その日は幸子にとって重大な事件が起こった日である。そう今からちょうど三年前、おばあちゃんが三百ページの本の話をしてくれてすぐだった。
 三百ページの本の中で今幸子と誠は同じページを開いているのかも知れない。そこに載っている内容は……。無くなった一ページをお互いに思い浮かべていた。
「僕は白馬に乗った王子様じゃないんだよ」
 誠が一言呟いた。白馬に乗った王子様はきっと幸子自身ではないかと思えてきた。池に写る自分の顔が白馬に乗った王子様に変わっていくのが見える。
 必然を偶然だと思い、偶然を必然だと思っている間は、きっと白馬の王子様が自分だということに気付かなかったに違いない。
 人生のターニングポイント、その一つが抜けている日記の一ページであり、そこで人生が繰り返されるのではないかとも考えた。誠との出会いは、もう一度繰り返す人生のパートナーであろう。
 幸子の抜けたページにはおばあちゃんの三百ページ目が描かれているに違いない。
 今日は家に帰れば三回忌、おばあちゃんの三回忌である……。

                (  完  )



作品名:短編集93(過去作品) 作家名:森本晃次