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ドーナツ化犯罪

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「えっ、前はネコも犬も好きだったような気がするんだけど?」
「うん、今はイヌは大丈夫のようなんだけど、ネコに関してはアレルギーが出てきたみたいで、病院から、ネコアレルギーだって診断されたのよ」
「ネコアレルギーって、そんなに突然になるものなの?」
「ええ、そうらしいわよ。おかあさんは詳しいことは分からないんだけどね」
「じゃあ、お兄ちゃんもたまにここにきて、プチの顔を見れば、癒しになるかも知れなわね」
「そうね。あなたのいる時に一度、来させてみようかしら?」
「ええ、そうしてくれると嬉しいかも? 私もお兄ちゃんには久しぶりに会ってみたいわ」
 というと、
「でもね、あの子にはまだ少しこだわりがあるようなのよ」
 と、母親は少し考え込んだ。
「こだわり?」
「ええ、あなたを家から追い出したような形になったでしょう? それがあの子には心苦しいらしくって、そのことを結構気にしていたようなの」
「そんなことは私何とも思っていないよ。むしろ一人暮らしをさせてもらって、仕送り迄もらえて、おかげで、プチとも一緒に暮らせるようになって、今の私は幸せなんだって思う。だから気兼ねなくきてほしいと思っているんだ」
 というと、
「そうよね。そう言ってくれると、あの子も救われる気がするわ。あの子はあの子で、家をいずれは継がないといけないと思っているようで、今はまだ仕事をしているんだけど、そのうちに農家を継ぐかどうか、考えてくれることになっているの」
 兄が家を継いでくれると、綾音としても安心であった。
 そんな綾音だったが、一人暮らしをするようになってから、プチ以外でも何か趣味を持とうとして、最初は何にしようか考えたが、女の子らしい趣味として、編み物をしてみようと思うようになった。
 まず、部屋にクッションを置こうと思い、リビング用品店に行ってみたが、そこで手芸関係のコーナーがあり、よく見ると、クッションカバーのデザインを、自分で編むというクラフト的な商品があった。
「これなら私にもできるかも知れない」
 と思い、さっそく買ってきて、作るようになった。
 これならば、プチと自分の用事さえ済ませてしまえば、あとはテレビを見ながらでも、片手間でできるのが一番の魅力だった。プチはいつものように遊んでくれないのが、最初の頃は寂しかったようだが、慣れてくると、もう何も催促しなくなる。綾音が一人で一生懸命にやっているのを横で見守りながら、じっとしていた。
 時々頭を撫でてやると、
「くぅーん」
 と言って、甘えた声を出す。
 それがまたたまらなく可愛くて、思わず微笑んでしまう自分がいた。綾音はあまり飽きっぽいわけではないので、数日もやっていれば、クッションは完成した。嬉しそうな綾音を見てプチも尻尾を振って喜んでくれているようだった。
 編み物の時間とプチと一緒にいる時間で、綾音の一人暮らしは十分に充実したものとなっていた。
 だが、綾音には大きなトラウマがあり、それが一種の病気を引き起こしていたのだが、そのことがどれほど大きな問題だったのか、綾音には分かっていなかったような気がする。しかも、綾音だけではなく、他人も巻き込んでしまうことになるなど、その時の綾音に分かるはずもなく、楽しい日々は、何事もなく過ぎていくのだった……。

                  出会いの二人

 綾音が人生の楽しみを毎日謳歌し始めてから、半年くらい経ってからだろうか。綾音は朝一度早く起きて、まだ夜が明けるか明けないかというくらいの時間に、プチを表に散歩させるため、出かけるようになった。
 もうその頃にはプチもかなり大きくなっていて、大人のイヌになっていた。
「ずっとお部屋の中では可哀そうだもんね」
 と言って、表に散歩に連れ出したのだ。
 その頃の綾音は、人と会うことを極端に嫌うようになり、人から声を掛けられるのも辛いくらいの時があった。いつもというわけではないので、アルバイトも何とかこなせていたが、精神的にきつくなると、早退させてもらったり、休みをもらったりしていた。
 店側からしても、今までの貢献度があるから、快く承知してくれていたが、本音としては、毎回のいきなりは少し何とかならないかと思っていたことだろう。
 綾音は最初、体調不良によるストレスくらいにしか思っていなかったが、次第に頭痛も激しくなってきた李、夜も眠れなくなったりしたこともあって、かなり迷ったが、精神内科の門を叩いた。
「確かにストレスからの体調不良であることに違いはないようですね。まずは睡眠を十分に摂って、食事もしっかりできるようになるのが先決かも知れませんね」
 と言って、精神安定剤をくれた。
 これには、睡眠作用も、食欲増進も入っていたので、ちょうどよかったのであろう。
「イヌを飼われているんですか?」
 と医者から言われて、
「ええ、一年半くらい前からラブラドールを飼っています」
「じゃあ、もう充分に大きくなっていますね」
「ええ、可愛いですよ」
 と言って、癒され顔になった綾音を見て、
「そうそう、その顔ですよ、それがあなたの本当のお顔なんですよ。いつもその顔ができるようになるのが一番だと思いますよ」
 と言われて、自分でも今している顔がしっくり来ていることを分かっていた。
 先生は続けた。
「何か、あなたには過去にトラウマのようなものがあるのかも知れませんが、まだそれほど重症化してもいないので、十分に元通りの明るいあなたに戻ることはできるはずです。あまり深く考え込んだりせずに、いつも愛犬と一緒におおらかな気持ちになることが何よりだと思います。それこそが治療なんだって思いますよ」
 と言ってくれた。
 その言葉が一番安心でき、どんなクスリよりも効くのではないかと思った。
 病院には定期的に通院することになっていたが、別に大きな問題があるわけでもないことで、通院も検診という程度のもので、それほど気にすることはないということだった。自分が精神的に不安定になり、病院に通っていることは誰も知らない。誰にも話したわけではないし、話す必要もないからだ。そんな話ができるほど親しい人がいないというのも事実だった。だからと言って、切実な話ができるような親友がほしいとは今は思っていなかった。
 スーパーに勤めていれば、ご近所さんも買い物に訪れる。挨拶をすることはあっても、会話になることはない。それでよかった。下手に詮索されるのも嫌だし、たくさんの人の中に入ってみると、聞きたくもない人のウワサであったり、愚痴などを聞かされることもある。綾音はそれが嫌だったのだ。
 学生時代には、男子を好きになったことがあって、友達に相談してことがあった。友達は親身になって相談に乗ってくれていたのだが、いつの間にかそのことが女子の間でウワサになっていたようで、悪いことにそのウワサが、好きになった人の耳に入ってしまった。彼は他の人と付き合っているようで、彼はそのウワサを聞いて慌てたのか、
「ごめん、俺彼女がいるんだ。申し訳ないけど、君とお付き合いすることはできないんだ」
 と言われた。
作品名:ドーナツ化犯罪 作家名:森本晃次