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ドーナツ化犯罪

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 ということは、見つかるまでの時間はさほど関係ないのではないか。見つかったのはその日の昼過ぎであったが、ひょっとすると、午前中だったかも知れないし、もっと遅い時間だったかも知れない。まさかとは思うが、次の日かも知れないだろう。
 となると、凶器を捨てた場所に、さほどの問題はないのかも知れない。どちらかというと、
「発見されなければいけない凶器なのだが、犯行現場とはなるべく離れたところで発見されること」
 このことが重要だったのではないかと門倉刑事は考えた。
 発見されたのは公園だったが、もしそれより遠かったらと考えると、いくら殺人事件が発生した近くだとはいえ、すぐにそれが凶器だと認識されないかも知れない。それよりも、まず子供に発見させることで、子供が怖がって親に相談することで、親はすぐに警察に通報すると考えたのかも知れない。もし大人が普通に発見していれば、ひょっとすると気が動転してしまって、警察に通報するタイミングが遅れて、警察に疑われるのを恐れるようになって、通報しないかも知れない。
 しかし、子供が発見したのであれば、通報はまず誰もがするだろうという考えであった。その考えにはほぼ間違いはないだろう。
 ということは、この犯人は今度の犯行に細心の注意を払っているのではないかと思う。人の首を切るだけの残虐性から、猟奇殺人なのか、それともかなりの恨みがあっての大復讐劇なのかという様相を呈していたが、こうなると、完全に計画的犯罪という意識をもたなければならない。
 ただ、そこに何かの完全犯罪を計画しているようには思えない。完全犯罪というのは、ある程度の時期になって、犯人がある程度確定されてくるが、捜査が続くにつれて、犯人と思しき人物の無実がどんどん証明されていくようなそんな犯罪ではないだろうか。
 鉄壁のアリバイを持っているなどというのが、その最たる例になるだろう。
 門倉刑事は、その場所からマンションまでを普通の人のスピードで歩いてみた。マンションの入り口までは五分ちょっとくらいであろうか。エレベータに乗って、部屋の前まできて、そして中に入る。本当は逆のルートなので、若干時間的には違いはあるだろうが、全部で十分くらいであろう。
 もちろん犯人はいくら計画性を持って犯行に及んだものだとしても、犯行を犯しておいて、平然とそのあたりにいられるほどのふてぶてしい人間にも思えない。犯人像がまったく現れてこないのが、その証拠であろう。
 そう考えれば犯罪者の心理として、しかも殺人という大罪を犯している人間であれば、特に、
「早く現場から立ち去りたい」
 と考えるのは当然のことであろう。
 犯人の逃走経路や犯行後の彼の行動も問題だが、何よりも解決しなければいけない鉄壁な問題があった。
 それは、
「部屋が密室であった」
 ということだ。
 部屋が密室であれば、考えられることは、昨日の鎌倉探偵の事務所で話をしたことであり。
「まずは自殺、そして、犯行時間の錯誤、いわゆる死亡推定時刻をずらすということ、そして犯人のアリバイ証明」
 などであろうか。
 そうなると、まずは自殺だが、凶器が公園で発見されたのだから、犯人が持って行って捨てたのだろうから、それは考えられない。
 次に考えられるのは、死亡推定時刻をごまかすことだが、よくあるのは、温度を変えることで死亡推定をずらすというやり方だが、クーラーもついておらず、タイマーが掛かっていたわけでもないという。温度調節はされていなかったことを思うと、これも考えにくい。
 最後の犯人のアリバイの問題であるが、これは最初から問題外だ。何しろ、今のところ犯人に結び付けるものが発見されていない以上、密室にするそもそもの理由がない。
 となると、犯人を特定できないように、密室にすることで、捜査をかく乱するという作戦であろうか。
 それにしては、ここまでできたのだから、他に何か考えていてもよさそうだが、今のところ何も見つかっていない。
 この事件に関しては、ある程度の側面からの事情は分かっているが、肝心なところが完全に抜けている。まるでドーナツ化事件とでも言えばいいのか、空洞化した事件と言えるだろう。
 そうなると、この事件は、案外と複雑そうに見えるのだが、それはあくまでもまわりの側面だけが分かっているから、そのすべてが微妙に結びつかず、ハッキリとしてこないだけなのかも知れない。
「複雑に見える事件ほど、分かってみると、案外簡単な事件だった」
 などというのも、このドーナツ化事件の特徴ではないかと思っている。
――ちなみにいっておきますが、この「ドーナツ化事件」、あるいは、「ドーナツ化犯罪」という言葉は、門倉刑事が勝手に名付けたものであり、実際の犯罪捜査とは因果があるわけではありませんのでご了承ください――
「この事件は、思ったよりも単純な事件なのかも知れない」
 と、そう思って門倉刑事は、この事件に望もうと思っている。
 やっと現場に戻ってきた門倉刑事は、管理人から預かったカギを持って、もう一度中に入った。
 警察は基本的に二人以上で捜査することになっているので、彼には若い刑事が一人ついていた。
 門倉刑事は、この署ではベテランとまではいかないが、犯罪捜査において、いくつもの「手柄」を挙げていた。もちろん、その功績には鎌倉探偵の助力は不可欠であったが、彼の捜査には一定のビジョンもあり、上層部も一目置いているので、捜査に関して、あまり文句を言う人はいなかった。
 可読rさんの操作方法は勉強になります」
 と後輩に言われてまんざらでもない表情になる門倉刑事は、
「誰か自分の手本になる人を見つけるというのはいいことだと思う。僕が君の手本として見られているのであれば誇らしいことで、どんどん精進しないといけないなって思うんだ」
 と言っていた。
 自分も、警察関係者ではないが、警察関係者の上層部が一目置いている鎌倉探偵を手本にしていることで成果が出ていることは自他ともに認めることだ。それを誇りに思っているので、そんな自分を見て荒廃が育ってくれるのであれば、これこそ、
「無言の教育」
 と言えるのではないか。
 その日も一緒に行動した後輩が、
「今度一度、鎌倉さんにお会いしたいものです」
 と言っていたので、
「おう、そうか、今度一度紹介しよう。鎌倉さんも僕の後輩を見てみたいと以前に言っていたことがあったので、これも機会だよな」
 という会話をしていた。
 その日は、そんな会話もなく普通に捜査をしていたのだが、部屋の中に入ってすでに片づけられた部屋を見ていると、後輩が一人の少年を連れて中に入ってきた。
「この子は?」
 と門倉刑事が聞くと、
「ええ、このマンションの二つ隣に住んでいる家庭の子供のようで、何かこの中を気にしていたので、ちょっと聞いてみたんですが、何かを言いたがっているようなので連れてきました」
 門倉刑事は、まだ小学生の三年生くらいの男の子を見ながら、
「こんにちは。何かおじさんたちに用事かな?」
 と聞くので、その少年は、
「おじさんたちは、刑事さん?」
 と逆に聞かれて、門倉刑事は後輩と顔を見合わせた。
「そうだよ。何か刑事さんにお話したいことでもあるのかな?」
作品名:ドーナツ化犯罪 作家名:森本晃次