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ドーナツ化犯罪

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「自分を殺してまでも成し遂げようとするのだからそうでしょうね。で、確かにその後人が殺されていくわけだけど、ここからが大切で、犯人は自分を死んだことにするために一人の女性を石膏像の中に埋め込んだ。自分のためだけにその人を殺したということになるのかということなんですよ。もし、その人が自分が殺したい相手であったのだとすれば、それは復讐として成り立つんだけど、それで本当に満足するかということもあるよね。実際に殺したい相手を自分として葬ってしまうことが本意なのかということ、つまり、その人が殺されたのだということを世間に公表しないといけないでしょう?」
「でもそれができない?」
「うん、でも、こうも考えられる。自分が殺されたものだとして、その人が自分を殺した犯人だとして、この世でその汚名を着せるという手だね。これもいろいろな探偵小説で使われている。よくあるやつというわけだ。しかし、僕が思い出した小説はそうではなかった。自分の復讐の相手でもない、いわゆる何の関係もない女性を石膏像に埋め込んだんだ」
「ということは?」
「ということは、そのままだと猟奇殺人で、自分のためだけに人を殺したことになる。でもそうではなかったんだ。ただこれはあの時代だからできたトリックであり、今では絶対にできないトリックなんだ。つまり、石膏像に埋められていたのは、元々死んだ女性であり、その人は土葬にされていたので、墓を暴くことで、死体を盗み出せる。今では土葬はまずないのでできないよね。死体を盗み出すなど、警察に忍び込んで盗むしかないので、あんなに大きなものを警察のような厳重な場所から盗むなんて不可能だ。特に今は防犯パメラもあるからね」
「なるほど、昔の探偵小説は、発想さえうまくできれば、ストリーを作ることなど結構うまくできるというものなのかな?」
「そういうことかも知れないね。しかも墓を暴くなんて怪奇であり、ちょっとホラーっぽい発想は今と違って、かなりのリアルさがある。だって本当にできてしまうことなんだからね」
「本当に恐ろしいですね。僕も昔の小説は時々読むことはあったんですが、そういう目で見たことはなかった。時代が違うので、想像力が豊かになるでしょう? それが楽しみだったというところですね」
「いや、それが大切なんだよ。発想する頭があれば、いくらでも探偵小説など書けるんじゃないかって思ったこともあるけど、それこそなかなか難しいですよね」
「墓を暴くなんて、まったく想像もできないですよ。昔の肝試しのお墓のようなものしか想像できないので、実際に土葬の墓がどんなものだったのかなんて、分かりっこないですよね」
「でも、昔の妖怪アニメなどでは結構ドロドロした描写もあって、怖かったりしたんだ。要するに、いるはずのないもの、見えるはずのないものが見えるというのが本当の恐怖だからね。それは探偵小説の中にも言えることであって、そんなバカなことと思ったり、ありえないと思うことが実際にあるのも探偵小説なんだ。分かるかな?」
「小説を酔いこんでいる人は、きっと途中からラストも想像していくんでしょうね。だからラストをいかに書くかということが重要になってくる」
「そういうことなんだ。僕も作家として売れなかった時期はそれができていなかったからではないかと思うんだ。確かに時代が求めるものと描きたいものとが違っていたということもあるかも知れないが、いいものというのは色褪せたりはしないんじゃないかって思うしね」
 なるほど、何となくですが、少しずつ分かってきたような気もします。でも、どうしても僕たちが相手をしているのは目の前の実際に起こった事件ですから、小説のようにもいかないですよね」
「だけど、事実は小説よりも奇なりという言葉もあるくらいなので、単純に思っている事件ほど複雑だったり、逆に難しいと思われる事件ほど単純だったりするんじゃないだろうか?」
「じゃあ、この事件も案外と単純なものなのかも知れないですね」
「さっきも言ったように、いくつかの手掛かりはあるんだろうが、手掛かりをきちんと順序だてて組み立てていけば意外と単純化も知れない。しかし一つ間違えると、複雑に絡み合わないとも限らないので、そこは難しいかも知れないね。ただ、これはこの事件に限ったことではないと思うんだけどね」
「それは僕も感じていました。もちろん、この事件に限らずの話ですが、やはり捜査をしていれば、時間とともにいろいろなことが分かってきます。事件に関係のあること、そしてないこと。それをいかに組み立てて考えられるかが、事件の謎を解く本当の意味の解決にはならないんでしょうね」
「その通りだよ。事件というのはまともに解決しただけでは、下手をすれば、すべての人が不幸になってしまうべきで、ある意味で『事実など知らなければよかった』ということもあるんじゃないかと思うんだ。捜査で得た情報をどこまで被害者の遺族だったり、被害者に告げるかということも難しい問題だったりするんじゃないかな?」
「おっしゃる通りです。そういう意味で、捜査する我々にも大いに責任があるということを肝に銘じないといけないんですよね」
「うん、僕もいつもそのことを考えながら、この仕事をしているんだ。時には元探偵小説作家としての目で見てみたり、被害者側に立って事件を見てみたりね。僕と警察の一番の違いは。警察というのは、真実を見つけ出し、犯人を捕まえることだよね。でも僕の場合には依頼人があることなので、基本的には警察と同じ事実を導き出すことなんだけど、最優先はやはり依頼人の利益を守るということになるかも知れないね。ただ実際には依頼人の期待に沿えないことも結構あったりするんだけどね」
「それは仕方のないことでしょうね。そこはもしその人が犯人で逮捕されてからの弁護士の仕事になるんでしょうからね」
「そういうことだ」
「ちょっと話が逸れてしまいましたけど、鎌倉さんは今までの事実の中から、何か分かったところはありますか?」
「ちょっと気になっているのが、モルヒネが被害者の河村君の身体から検出されたということだね。モルヒネというのは、麻薬としてかつては使用されていた時代もあったようだが、今はほとんどが、ガンの時の痛み止めとして使用されることが多い。彼はガンだったのかな?」
「そういう事実は今のところ上がってはきていませんね。自分でどこかの医者に通っていたということもなかったですし、しいて言えば、彼女である亡くなった安藤綾音さんい付き添って神経内科に通っていたくらいでしょうか?」
「彼がモルヒネを使っていたのは、一度だけだというわけではないんだろう?」
「ええ、最近からのことではあるんですが、一度や二度ではないことだ毛は分かっています。以前に麻薬を使用していたというという話もなく、解剖所見にもそんな形跡はなかったということです。確かに言われてみれば、このモルヒネというものの出所も分かっていませんし、彼が単独で手に入れられるものでもないような気がしています。だから、彼が知らぬ間に接種されていたのか、それとも、医者との合意の上でのことなのかもよく分かっていません」
作品名:ドーナツ化犯罪 作家名:森本晃次