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ドーナツ化犯罪

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 そうなると、どこまでが続いていて、どこからが単独なのかが分かりにくい。事件を時系列に並べてみても、この一連の事件はすべて底辺で結び付いているように思えてならない。
 鎌倉探偵はそのことを言おうとしているのではないだろうか。
「プチというラブラドールはどんなイヌなんだろうね。今どうしているんだい?」
「確か飼い主がいなくなってしまったので、今は警察にいますが、そのうちに保健所へ行くことになると思います。そういう意味ではあの犬も可哀そうですよね」
「保健所に行く前に解決しないといけないだろうね。下手に保健所になど行かれたら、事件がお宮入りになるかも知れないからね」
「じゃあ、鎌倉さんはこのイヌが何かを知っていると?」
「そうとしか思えないんだけどね。皆はイヌを見ているつもりで見ていないんだ。それは道端に落ちている石ころと同じで、見えているのにまったく意識しない。そんな存在がそのイヌなんじゃないかな?」
 鎌倉探偵のこの抽象的な表現にはいつも驚かされる。しかし、こんな言葉に限って例外なくその真意を掴んでいるのだから素晴らしい。
「鎌倉さんは、もうこの事件について分かっているんですか?」
「そんなことはないよ。ただね、僕はいつも理論を持って推理するんだけど、今回の事件は分かってしまうと、結構分かりやすいものではないかという予感がするんだ。実際にそういう事件に限って、意外と最初に感じたことが的を得ていたりする。でもね、たいていの場合は、『そんなことないよな』って自分で打ち消したりするんだ。きっとまわりから突っ込まれると、それに対しての返事ができないからではないかと思うんだ」
「なるほど、それはあるかも知れませんね。でも鎌倉さんのようにいつも理路騒然としていると、突っ込む方も結構難しいんですよ」
「いやいや、それでいいんだよ。突っ込む方が難しいというのがミソなのさ。それだけ発想が豊かになるということだからね。僕は元々小説家という商売をしていたので、小説っぽく考えてしまうことが多いんだよ」
「でも、探偵小説と本当の殺人ではかなり違いますよね」
「それは、刑事さんの立場からはそうだと思いたいんでしょう。特に足で稼ぐ商売だから、余計に頭で解決しようとする探偵というものを敵対視するところがある。それは刑事と探偵の宿命のようなものなのかも知れないですね。それに探偵小説に出てくる刑事というのは、どうしても探偵の引き立て役であり、下手をすると探偵の助手のような役回りだってある。しかも、警察がトンチンカンな推理をして、それを探偵が正しく推理しなおすのが醍醐味になんてなってしまうと、警察の権威は失墜ですからね。そりゃあ、警察の人間としては面白くはないですよね」
 まさしくその通り、かくいう門倉刑事も昔は似たようなことを思っていた。
 今でこそ鎌倉探偵に完全にシャッポを脱いで、意見を伺いに来ているが、最初の頃は他の刑事と同じように、
「なにくそ、探偵がなんぼのもんじゃい」
 とばかりにいきり立っていたものだ。
 だが、門倉刑事が鎌倉氏ぬ軍門に下ったのは、ある事件の捜査をしていた時、門倉刑事の何気ない一言が大いなるヒントになって、鎌倉探偵の推理の穴を完全に埋めたことがあったのだ。
「あの一言があったおかげで、事件の最後のピースが埋まったんだよ。まさに君が神様に見えたよ」
 と言っておだてられたことが原因だった。
 実は門倉刑事はこう見えてもおだてに弱く、それがうまく嵌った時は、意外と能力以上の実力を発揮するといい、まわりを驚愕させたものだった。
 おかげで、県警本部長賞を頂いたこともあった。今でも部屋に額に入れて飾っていて、「警察に入って一番の褒章だ」
 と言って、自他ともに認めるという意味でも本当の宝物だった。
 そんな門倉刑事なので、鎌倉探偵を尊敬し、まるで親友のように仲良くしてもらえていることをとても誇りに感じていた。
 そんな鎌倉氏を頼って今回も事件を相談に来たのだが、またしても少し横道にっ逸れて、探偵小説談義になっていた。ただ、それが事件解決への最短距離になることが多いので、まんざら雑談というわけでもないのだ。
「最近のはどうか分からないけど、自分がバイブルように読んでいた昔の探偵小説というのは、結構すぐに犯人が分かったりしたものなんだよ」
 と言ってきた。
「そうなんですか?」
@ああ、犯罪のトリックというのは、すでにほとんど出きってしまっていて、あとはそのバリエーションになるというのだよ。特にトリックというと公式化されているものが多いだろう? 例えば『顔のない死体のトリック』というのは、犯人と被害者が入れ替わっているとかね。こういういわゆる公式と呼ばわるものが存在する。また、最初に襲われた人が死ななかったりすると、それは自分を事件の蚊帳の外におくために、最初に狙われたことにするなどというやり方だよね。そうなると、最初にその兆候が現れれば、ある程度犯人が誰かということだけは分かってしまうだろう?」
「ええ」
「だけど、ここからが大切なんだ。このまま無作為に犯人を言い当てても、面白くもなんともない、だから、どのように犯人に辿り着くかが問題なんだ。絶妙なタイミングで凶器が見つかるとか、顔のない死体が欺瞞だったなどという謎解きができれば、犯人が読者が考えた相手であっても、誰も怒りはしない。逆に別の犯人にしてしまうと、一気に冷めてしまう。読者というものをいかに楽しませるかは、作者の創作の楽しみでもあるんだ。そこをよく分かっていると、刑事としての目も養えるんじゃないかな?」
 と言っていた。
 さらに鎌倉氏は続ける。
「たとえば、これは僕が好きだった小説のネタなんだけど、石膏像の中に女性が埋め込まれていて、それが偶然発見されるんだ。それで石膏像を壊してみると、中からは顔が崩れた女性の死体が出てくるんだけど、その後に、被害者の妹と名乗る人が現れて、行方不明になっている自分の姉ではないかというんだ。姉は誰からか脅迫されているなどということを警察で言えば、警察は、その被害者がそのお姉さんで、自分を狙っている脅迫者に殺されたと思うじゃない。でもね、ここで冷静に考えれば一つの仮説が生まれるんだ」
「というと?」
「被害者と思われている人が実は犯人ではないかってね。つまり自分が殺されたことにしてしまえば、その後に何か犯罪が起こっても、一番安全でしょう? それが狙いだと思うと、とりあえず、犯人、もしくは共犯者としては、そのお姉さんが疑われることになるよね」
「それはそうですが、でも、その仮説から考えるとその後に何かが起こることになるわけでしょう?」
「うん、その通りなんだ。だから、犯人自体は最初に分かっても、その先の展開がないと、何のためにそんなまわりくどいやり方までして自分をこの世から抹殺しなければいけないのかということになる。一つ考えられるのは、過去に何かの大きな犯罪に関わっていることで、自分を死んだことにしようという考え、もう一つは誰かを殺そうとしているから自分を葬っておく必要があるという考えだね」
「後者だとすれば、それは金銭的な欲であったりではないでしょうね。何かに対しての復讐でないと成立しない気がしますね」
作品名:ドーナツ化犯罪 作家名:森本晃次