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ドーナツ化犯罪

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 先日の場合は睡眠薬だったので、死んでいるということが一番の恐ろしさだったが、今度はもし誰かが倒れているとすれば、それは惨状であることは明らかであった。それでも管理人としては確かめないわけにはいかず、勇気を振り絞って、問題の寝室に入り込むのだった。
「わっ」
 女性一人であれば、こんな場面は致命的だが、男性が一人であっても、それは変わらないと思うほどの惨状だった。
 あたりは真っ赤に染まっていて、そして飛沫となって付着していることから、そのほとんどは凝固していて、まるでペンキが乾いた痕であるかのように見えた。
 二人は怖くて近づくことができない。したがって、その人がどうなっているかなど考える暇もなく、死んでいると思い込んでいた。実際に死んでいるからよかったようなものの、もし虫の息であれば、救急車を呼ばなければいけないところだったが、二人は慌てながらも連絡した先は警察だった。
 もちろん、殺人事件の通報としてである。
 またしてもやってきたのは、門倉刑事だった。
 門倉刑事は、まず発見者である隣の奥さんに事情を聴いた。ただ奥さんは、昨日の隣の音に関しては正確な話をしてくれたが、殺害現場に関しては、正直ほとんど見ていないという。
「あの状態では仕方がないか」
 と思い、それではと、管理人のところに話を聞きに行った。
 管理人が電話をしてから十五分ほどして警察が到着したのだが、それまでは二人は表に出ていて、警察の到着を待っていた。
「警察が到着するまでお二人で表で待っていたというのは、本当ですね?」
 と訊ねると、
「はい、密室で、あんな臭いのする中ではいられませんよ。警察に連絡を入れてくるのを待っていました。この間の上の階の女性の通報で、だいたいどれくらいで警察が到着するかは分かっていましたからね」
「なるほど、そうですか。中に入って何かに触れたということはありませんか?」
「触れたとすれば、ドアノブくらいですかね? 後は私も奥さんも触れてはいないと思います」
 この証言は奥さんの証言とも一致していた。
「じゃあ、寝室の扉も開いていたということですか?」
「ええ、その通りです。開いていたからこそ、玄関先にまであの酷い臭いが漂っていたんですからね。それにしても、やっぱり死んでいたんでしょうね?」
「ええ、もう絶命した後でした。それもだいぶ前に死んでいましたね。時間にして二時から四時の間くらいなんじゃないかというのが鑑識の話でした」
「ということは、お隣の奥さんがコトコトという音を聞いたと言いますから、その時に殺されたか、その少し後だったかということですね」
「そうなりますね。でも、それだと密室だったんですよね。発見した時」
「ええ、窓は閉まっていました。施錠までは見ていませんが、私たちが発見してから、警察の人が来る迄私たちは玄関の前で頑張っていましたので、その間に誰かが出て行ったということはありません。今現在が密室であるならば、最初から密室だったというしかないと思います」
「じゃあ、密室だったことに間違いはないようですね。お隣の奥さんとの証言も一致していますし」
「現場を私たちは怖くて見ていないのですが、どんな感じだったんですか?」
「何かで喉をかき切った感じですね。血がかなりの量出ていましたが、即死だったのは間違いないでしょうね」
「苦しむことがなかっただけよかったと言っていいのか……」
 と管理人は身体から震えが止まらないまま、ボソッとそう言った。
「だから、あれだけ血がまわりに飛び散っていたんですね。そういう意味では惨状としてはかなりのひどいものですよ」
「そうですね」
「ところで、被害者の河村さんですが、誰かに恨まれていたというような話は聞いていませんか?」
「私は聞いたことありませんね。部屋で殺したんだから、仕事関係というよりも、プライバシー関係の人には違いないような気がしますけどね」
「それは思います。仕事関係は今他の連中が洗っていますが、僕はこのマンションに何かありそうな気がするんですよね」
「そういえば、死体を発見した時なんですが、玄関の扉を開けた時、イヌが飛び出してきました」
「イヌですか?」
 と言って、門倉刑事は、それを聞くと今度は手帳を開いて見ていた。
「被害者の死んだ時のことですが。どうも首をかき切られた時、一緒に何かに?みつかれたようで、最初のその噛みつきが致命傷になったようですね。その犬はどうしました?」
「扉が開いた瞬間飛び出してきて、私たちに対して振り向くことなく、そのままどこかへ行ってしまいました。私たちはイヌよりも何よりも部屋の中の方が気になったので、急いで入ったんです」
「イヌ派まったく振り向かなかったんですか?」
「ええ、まったくですね」
 と刑事は念を押したことにおかしいと感じながら管理人は答えた。
 やはり管理人が不審に思ったことは、考えすぎではなかったようだ。イヌが飛び出してきた時、こちらを見なかったというのが何を意味しているのかは分からなかったが、違和感があったことだけは確かなことだったのだろう。どちらにしても、この部屋が密室であったことには違いないが、もう一つ不審な点もあったのだ。
「実はですね。凶器が部屋の中から見つかっていないんですよ」
「犯人が持ち去ったんでしょうかね?」
「それはまだ分かりませんが、どうにも解せない部分が多いような気がします」
 時系列で説明すると、まず翌日に、被害者マンションから五十メートル離れた児童公園の砂場の中に、ナイフが捨てられているのが分かった。かなり血が滲んでいるようで、専門家に聞くと、これはかなりの切れ味のあるナイフのようだった。軍用にも使われているもので、首を切った凶器がこれだということはどうやら間違いのないことのようだ。血液検査も行われ、血液型は同じだということまで判明した。後はもう少し精密な検査を行うことで確定もできるであろう
 この凶器がなかなか入手困難であるという話から、警察の方で、ナイフを扱っているところや、ミリタリーグッズの用品店などが注目されて捜査された。
 その中で、同じ警察管内ではないところにある用品店が、実は裏でミリタリーグッズを扱っているという情報を手に入れ、実際に事情を聴きに行こうと思っていたのだが、そこの店長が実は先週殺されていることが判明したということだった。
 これもナイフで一突き、即死だったようだ。店構えは普通の日用品を取り扱っていて、怪しい雰囲気はないが、この店主というのは、結構、
「ヤバい」
 と言われている人で、この男の部屋から押収したビデオなどには、盗撮や盗聴、その他反残間外と犯罪まがい、いや犯罪そのものの証拠が出るわ出るわ。今まで被害届が出ていなかったのが不思議なくらいであった。
 こちらの殺人事件を捜査している刑事とも話をしてみたが、やはり相当な悪党だったようで、バックには暴力団の姿もチラホラ見えていたという。
 と言っても幹部クラスではなく、かなりの下っ端、チンピラ風情とのつながりがある程度で、大きな犯罪に手を染めることはなかった。そういう意味で表に出ていなかったというのも分かる気がした。
 そんな中の被害者の中に、
「あれ? この人は?」
作品名:ドーナツ化犯罪 作家名:森本晃次