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短編集92(過去作品)

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 不器用だという思い込みの激しさは、気持ちの余裕を持ってしてもなかなか解消できるものではないようだ。小さい頃から感じてきた思いを拭うには、一筋縄ではいかない。やはり神経質な性格なのだろう。
 それでも、読書の時間を持つようになってから、自分の時間が少しずつ確立されていった。本を読むのは寝る前の数十分に過ぎないが、一箇所どこかの時間が決まってしまえば、後はしたいことの計画を立てるのは苦にならなかった。
 毎日で違うことも多い。しかし、日課になっていることで毎日同じ時間を過ごすことが他の時間を大切にできるようになっていった。あれだけ部屋にいる時間を長いと感じていたのがウソのように、気付けば読書に時間になっている。
 本を読むと眠くなるので、数十分が限界だ。本を読むことで夢見心地になり、そのまま夢の世界に誘われるのである。これこそ自然な睡眠ではないだろうか。
 部屋での時間を大切にするようになると、表でも時間を大切にするようになる。
「最近、一日が経つのが早くてね」
 と友達に話すと、
「いいじゃないか、充実している証拠さ。羨ましい限りだ」
 という答えが返ってくる。実は、分かっていて聞いているのだ。分かりきっている答えを期待して聞くことも中西の性格の一つだった。
――自分の考えをまわりにも認めてもらいたい――
 という気持ちが働くのだろう。一人で考えることが多いと思っていたが、時々まわりに確かめたくなる性格は、女性に関してのことが多いようだ。
 相手が女性だと、それがそのまま自己満足に繋がる。長所なのか短所なのか分からないが、中西の自己満足は他人とは違うと思っている。
――自分で満足しなくて、人を満足などさせられるものか。自己満足をバカにする連中の気が知れない――
 と常々思っている。
 自分の部屋での時間、一人の時間が充実してくると、表の時間も充実してくる。時間の使い方が上手になり、そのおかげでリーダーシップも自然と身についてくるようだ。
 しかし、集団で行動することをしない中西は、女性と一緒にいることが多く、そんな場合も絶対的優位な立場で相手をリードしていたことだろう。
 女性が部屋に来たいといっても、
「いや、僕が満足させてあげるから」
 というだけで相手は納得していた。部屋に招くまでもなく、ホテルでも十分だったのだ。
――誰か部屋に女性がいるのかしら――
 と中には勘ぐる女性もいたかも知れない。しかし、そんな女性たちとは長い付き合いをするわけでもなく、中西の方から離れていく場合が多い。自分を信じられないような女性というのは大体行動パターンも言動も分かるもので、そんな女性と長く付き合おうという気はない。ウンザリするだけだ。
 自己満足を続けていくには自分を絶えず見つめている必要がある。自分を見続けるということは難しいもので、相手を観察する方が楽なくらいである。中西はそのことを分かっていた。
 中西が今まで付き合った女性にはさまざまなタイプの女性がいた。最初から自分の好みが分からなかったからであるが、最初に付き合った女性は物静かな女性だった。
 彼女が初恋というわけではない。女性に興味を持ち始めて最初に気になった女性は、どちらかというと活発な感じの女性で、背が低く、お人形さんのような可愛らしいタイプの女性だった。
 しかし、実際に初めて付き合ったのは違うタイプの女性、それも好みのタイプとは正反対の女性である。
 付き合った女性は物静かだが、根はしっかりした大人の雰囲気を醸し出していた。何もかも初めての中西に対し、優しくリードしてくれる。初めてでも優しかった。初めてだと顔を赤らめて言った中西に対し、
「いいのよ」
 と一言だけ言って誘ってくれた。無言で落ち着いた表情には余裕が見られ、時折発散している大人の色香にドキッとしてしまう。
――この人がタイプなんだ――
 と思い、きっと長く付き合うことになるだろうと思ったものだ。彼女は静かだが中西には従順で、黙ってついてくるタイプの女性である。男としては最高の女性なのかも知れない。
 だが、実際には長く付き合うことはなかった。一緒にいる時間が次第に短くなり、気がつけば一緒にいなくてもあまり気にしないようになっていた。
――本当に好きだったんだろうか――
 と感じるほどで、別れる時もそれほどショックはなかった。ただ一つ言えることは、
――お互いに遠慮ばかりしていたような気がする――
 ということだった。
 元々中西は遠慮深い性格で、人に譲って損をすることもあった。彼女も物静かな性格のため、相手に合わせようとする性格が前面に出ていて。三行半という言葉がよく似合う女性だった。そんな二人が付き合っていれば、いずれどこかですれ違いも起こるものだろう。付き合っている間はそんなことを感じたりしなかったが、別れてから考えると、まさしくその通りであった。
――別れてホッとしているのも、本音かも知れない――
 本音?
 そういえば本音で話をしたこともなかったように思う。今まで友達との間で本音を漏らしたことのない中西だったが、彼女との間で、お互いに本音をぶつけ合える仲かも知れないと思っていたのに、そこまでいかなかったことが別れに繋がる要因の一部だったと考える。
 しかもお互いに遠慮ばかりしていては、先に進むはずもなく、別れも仕方がないことだった。
 とはいえ、初めて付き合った人と別れた後は、さすがにショックが尾を引いた。
――もう少し付き合ってみたかった――
 という思いがあったのも事実で、簡単に別れてしまったことへの後悔が襲ってきた。彼女がどう思っているか分からないが、道ですれ違っても彼女は決して視線を合わせようとせず、実に冷静に歩いている。少し癪に触るくらいである。
――やはり自分には合わない女性だったんだ――
 と思うようになると、今度は違ったタイプの女性が気になってくる。だが元々、
――来るものは拒まず――
 だったこともあり、しかも自分がそれほどもてるとは思っていなかったので、知り合った人を逃がすなど、できようはずもない。
 だが、社会人になって営業に回るようになってから常連となった喫茶店で見かけた女性、彼女を理想の女性だと感じたのは初恋の人に似ていたからかも知れない。
 初恋というのは最初に付き合った人という意味ではなく、女性に興味を持ち始めて最初に気になった人という意味である。中学時代だったが、その人の顔を見るたび、頬が熱くなって顔から火が出るような気持ちになったことが何度あったことか。顔だけではない、身体の、男性としての部分が反応していたのも思春期に入っていた証拠だろう。
 その時の女の子とは、高校も別々になったので、中学を卒業してから会っていないが、そのままの雰囲気で大人の女になっているかも知れないと感じた。女性を抱いてみたいという淫らな感情を抱いたのは彼女が最初だった。
 彼女は誰に対しても同じ笑顔を見せていた。まるで女神の笑顔のようだが、気になっている男性からすれば癪に触る。自分だけに笑顔を向けてほしいと思っているにもかかわらず、笑顔は皆に向けられているのだ。
作品名:短編集92(過去作品) 作家名:森本晃次