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永遠の香り

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

                小学生の頃の淡い記憶

 朝倉静香は、今年で十九歳になる高校卒業し立てであった。高校時代は女子高だったので、まわりはすべて女子、彼氏がほしいと露骨に叫んでいる友達の声を聞きながら、それをあっさりと聞き流しているような女の子だった。
 彼氏をほしいと思ったのは中学時代だった。ただ、それも一年生の時だけで、二年生以降では、
「汚らしいだけだわ」
 と、男子を毛嫌いしていた。
 小学生の頃は背も低く、小柄だったことで、目立つ存在でもなかった。高学年になってくると、女子の成長は男子よりも発達してくるということで、男子よりも背の高い女の子がいるくらいだった。
 ガタイも大きく、男子であっても、一対一では負けてしまうのではないかと思えるほどの女の子は、そんな自分の成長にコンプレックスを感じているのかm静香には分からなかった。
 逆に学年が上がっても、ほとんど背も伸びず、発育を一切感じさせない自分の身体に、半分嫌気がさしていた。もう少し大きければ、男子に交じって遊ぶこともできるだろうが、女の子の中でも一回りは小さく感じられる静香など、誰が相手にするだろう。相手にしたとしても、体よく利用されるだけになってしまうのがオチではないだろうか。
 そんなことを思っていると、いつの間にか一人でいることが多くなった。
 学校からの帰りもいつも一人だった。家に帰ってからすることといえば、本を読むのが好きだったので、それが救いだったかも知れない。女の子のくせに推理小説が好きで、テレビドラマでも、サスペンス物をよく見ていた。
――こういう性格だから、お友達ができないのかしら?
 と思ったこともあるが、まわりの友達のように、ミーハーだったりするのは嫌だった。皆が見ているものを見ていないと仲間外れにされるような雰囲気は、どうにも性に合わないと思っていた。
 静香は学校の帰り、時々近くにある公園に寄ることが多かった。その公園には、よくネコが集まってきていて、ネコたちと遊ぶのが好きだった。
 ネコというと、普通であれば、人間を見たり、人間が近づいてくると、一気に逃げてしまうものだが、その公園にいる一匹のネコだけは、静香に懐いていた。
「どこかで飼われているのかしら?」
 と思うほど、そのネコは慣れていて、最初こそ、じっとこちらを見つめていただけだったが、
――逃げないということは、近寄ってくるかも知れない――
 と思っていると、果たして近づいてきたので、心の中で、
「やった」
 と叫んでいた。
 ゆっくりゆっくり近づいてくるネコは、すでに懐いているのだろうと思うと、静香も顔がほころんでくるのを感じた。ネコは、
「ミャー」
 と一声鳴くと、そのまま静香の膝の上に乗ってきた。
 静香にはそれで十分だった。静香の膝の上で背中を丸くして佇んでいるネコの首筋を撫でてやると、またしても、
「ミャー」
 という声で鳴いている。
 顔は見えないが、本当に気持ちよさそうにしている背中を見るだけで、その顔が想像できるほど、自分がネコを好きだったのだということに、気付かされた気がした。
「ネコの額」
 と形容されるほと、ネコ派顔が小さいが、自分も小さいことにコンプレックスを感じていることで、ネコの気持ちも分かるし、ネコも自分の気持ちを分かってくれるのではないかと思ったのだ。
 普段は立ち寄ることもない公園だったが、その日立ち寄ったのは何か運命のようなものを感じたのは次の日も来てみると、まったく同じ場所にネコがいたのを見たからだった。
 種類は同じネコだったが、昨日と同じネコなのかと言われれば自信はない。しかし、まるで昨日を繰り返しているかのように、昨日のようにネコが近づいてくる。
「こういうのをデジャブというのかしら?」
 推理小説を読んでいると、時々心理学などの科学的な用語も出てくる。こんな難しい言葉を知っているというのも、その影響であった。
 次の日はネコはすぐには膝の上に乗ってこなかった。最初、脛の横に横顔を押し付けて、スリスリしていたが、指で昨日のように首筋を撫でてやると、
「ミャー」
 と昨日と同じ声を上げた。
 まさに、
「ネコナデ声:
 である。
「気持ちいい?」
 と言って声を掛けると、またしても甘えた声を出してくる。
 この日のネコ派少し甘い香りがした。何か拾って食べたのかも知れないが、背中から失費に掛けて撫でてやると、また背中を丸めて、気持ちよさそうだ、静香の方もネコの背中に生えている毛が心地よかった。触れるか触れないかというくらいの微妙なタッチがよかったのかも知れない。
 今度は顔が見えるので、その顔が昨日想像したような縦よりも横の方が広いのではないかと思えるほどの顔の広がり、そして、目は開こうともせずに、気持ちよさに身を委ねている感が果てしないその表情に、静香も見とれてしまって、身体を動かすことができなくなっていた。
 少しの時間が経ったのに気付いたのは、ネコが昨日のように、膝の上に乗ってきたからだ。膝の上ではいくら足を狭めているとはいえ、安定感がないはずだ。それを補うために、ネコ派背を丸めて、まるで臨戦態勢のようになっているのだろう。それでも膝の上に乗ってくるということは、それだけ膝の上が気持ちいいということであろう。それは誰のというわけではなく、静香の膝だからいいのではないだろうか。そんなネコを見ていると、少々のわがままは聞いてあげてもいいように思えてきた。「ミャー」
 とまた鳴いたのを見て。
「ヨシヨシ」
 と、また顎を撫でてやる。
 この繰り返しを何度となく続けてればいいのか、時間を忘れられる空間がそこに存在していた。
 その公園は、下校時間は子供が結構いるのだが、夕方の日が暮れる近くになると、一気に人が減っていく。夕暮れギリギリまで子供が遊んでいるということを裏付けているのだろうが、気が付けばまったく一人になってしまい、寂しさの風が吹いているのを感じさせられる。
 ほとんどの子供は親が迎えに来ていた。それだけ小さな子が多いのであって、ほとんどが低学年だった。
 四年生になっていた静香だったが、彼女も発育が遅かったので、見た目は二年生くらいに見られた。
「お嬢ちゃん、お母さんがまだ迎えに来てくれないの?」
 と心配して話しかけてくれるおばさんもいたが、
「おかあさん、お仕事でいないから。それに私はもう四年生なので、おかあさんが迎えにくることのない年齢なんだって思ってるわ」
 と言った。
 いかにも小さくて二年生くらいにしか見えないあどけない女の子がこんなことを言えば大人はどう感じるのだろう。
「大人びた子供だ」
 と感じるだろうか。
「生意気な子供だ」
 と思われたとしても、別に構わなかった。
作品名:永遠の香り 作家名:森本晃次