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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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俺は三人分のお茶をちゃぶ台に出して、自分の分は煎れずに、じっと栄さんを見張っていた。栄さんは大家さんの隣で、一歩後ろに座っている。すると大家さんが、「お茶をありがとう」と言って用件を話し出した。


「あたしも驚いたんだがね、おかねさん、お前さんの亭主になりたいから、話を通してくれと言って、この若者が聞かなかったんだよ」

“やっぱりそんなことか”。俺はそう心の内でため息を吐く。そして、おかねさんが簡単には断れない方法を選んだ栄さんを、大家さんの後ろから睨んだ。もちろん彼はこちらを向かない。

「ま、まあ…。でも、あたしが亭主を持つ気はないって、大家さんもご存じじゃありませんか」

「そう言ったんだがね。この人はお前さん以外に考えられないと思い詰めて、あたしの前で泣きながら頭を下げたんだよ。だから一応、あたしの方からも少し意見をさせてもらうがね…」

大家さんはそこでずずっとお茶を啜り、それからちょっと言いにくそうな顔をしてはいたけど、すぐにこう切り出した。

「もちろん、お前さんがかたいのは、みんな知っている。ここにいる秋兵衛さんとも、お前さんなら間違いの起きようがないことも。でもねおかねさん。外から見たらそんなことは初めはわからない。知らない人がここに初めてお稽古に来て、どうやら下男が一つ屋根の下に寝泊まりしているようだとわかれば、人聞きの悪い噂が立つことだってある。だからここは一つ、本物の亭主を持ってみてもいいんじゃあないかい。そうすればお前さんだって、あたしに泣いて頼んでくるような人と一緒になれるし…」

大家さんは、終いまで「意見」を言うことはできなかった。おかねさんはその時、決然と自分の気持ちを言って、話を終わらせてしまったのだ。

「それなら言います。あたしにはもう亭主があるんです。大家さんもご存じの、昔言い交わしたひとです。今はあの世とこの世に別れてはいますが、末には逢えるんですから、心配いりません。世間様から何か言われても、そう言えば済む話です。それに、秋兵衛さんとどうこうなんて、考えられもしません」

大家さんは慌てておかねさんを慰めようとしたが、おかねさんは聞かなかった。

「今は…一人にしておいてください」

「そうかい…すまなかった。じゃあもう私たちは帰るよ。栄さん、今日は帰ろう」

大家さんは謝って、二人はそのまま帰って行った。栄さんはぼーっとあっけにとられたような風でふらふらと出て行き、大家さんは戸を閉める前にもう一度、「すまないね」と言った。

「いいえ」

おかねさんは大家さんをじっと睨んでいたけど、ぴたりと扉が閉まると、ちゃぶ台に顔を伏せて泣き出した。