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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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第二十三話 彼女の真実






”いよいよ今度は栄さんのお稽古の番だ”という頃合いだった。いつもなら、前に稽古をしているお弟子さんの後ろで栄さんは一服吸っているところだったのに、彼はまだ来ていない。

「遅いねえ栄さん」

「はい…」

俺は、正直に言えばこう思っていた。

“どうか栄さんが気持ちを打ち明けることに恐れをなして、もう金輪際ここに来ませんように”

もちろん、栄さんがそんな内気なはずはない。それじゃあまるで、恋の病に罹った深窓の令嬢だろう。

そう考えていると早速表の戸が叩かれて、こんな声が聴こえてきた。

「おかねさんや、いるかい」

それはよく俺が店賃(たなちん)を持っていく、大家さんの声に間違いはなかった。だから俺たち二人は動揺したのだ。

「はい!今開けます!」

“大家さんが向こうからやって来るなんてよっぽどのことだ。自分たちは何かしてしまったのか”。そう考えても無理はないだろう。

でもおかねさんが戸を開けると、確かに大家さんは居たけど、その後ろに栄さんも居た。

「今はこの栄吉さんのお稽古の時間だというじゃないか。上がってもかまわないかな?」

「え、ええ…」

おかねさんは戸惑いながらも俺にお茶の支度を言いつけ、訪ねてきた二人を不思議そうに振り返っていた。

でも俺にはわかったのだ。栄さんが、“外堀から埋めようとしている”のが。