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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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「へえ!二升の切手!そうかいそうかい、あとでお礼をしなくちゃならないねえ!」

おかねさんは大喜びでお酒の切手を受け取り、うきうきとしばらく栄さんの話をしていた。

「顔を見せてくださいとは言ったんですが…」

俺がそう言いかけると、彼女はふふふと笑う。

「あの人はそういう人なんだよ。人になんかやるってえと恥ずかしくなってさ。そのくせ「いらない」なんて言っても、もう自分じゃ受け取りやしないのさ。そういうところが好きでねえ」

話が済んだらすぐに酒屋に向かおうとでも思っているのか、おかねさんは膝の上に切手を置いたままだった。

「江戸っ子はやっぱりああじゃなくちゃならないよ。唄は得意じゃないかもしれないけど、気の利いたことが言えるときもあるんだよ。この間なんか、あたしが切れた弦の張り直しをしてやったときにねえ、「按摩(あん)の療治かいお師匠」なあんて言うんだよ。「貼り直す」と「針、なおす」を引っ掛けたのさ。まあまあってとこじゃないかねえ…」


俺はしゃべり続けるおかねさんに相槌を返しながらも、心の中で危機感を感じていた。

多分、栄さんはこれを機におかねさんを口説こうという算段なのだろう。

もちろん贈り物なんかで言い寄られてもおかねさんがなびくとは思えないけど、万一に彼女が、「江戸っ子同士で気が合うじゃないか」なんて言い出したりしたら。

俺には高い贈り物なんてできないし、それに多分、今彼女は、俺と距離を置きたいと思っているだろう。

俺たちのここ数ヶ月の会話と言えば、「あったかくなってきたねえ」「うまいねえ」と「そうですね」くらいのもので、以前からの焼き直しだ。


さあどうしよう。俺はびくびくしながら見守っていることしかできないらしいぞ。




そしていよいよある日、栄さんが稽古に出てきた。でも、まず現れたのは栄さんではなかった。