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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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第二十二話 恋敵






俺とおかねさんは黙って布団を敷き、そしておかねさんはいつものように行灯の火を吹き消して、俺たちはそのまま眠った。


俺は、何かを言えば、たちまちそれは彼女への想いにまで行き着いてしまうと知っていた。

おかねさんはおそらく、俺に黙って隠していたことをこれ以上聞き出されたくないから黙っていた。



そして次に目を開ければ、あっという間に朝になっていた。


“あんまり寝た感じがしないな。それにしても、おかねさんとどんな顔をして朝の挨拶をすればいいんだ…”


俺が起き上がると、おかねさんの布団はもう畳まれていて、彼女は居なかった。それで俺は何を考えたわけでもないのに、慌てて戸口から出る。その時右に三歩の井戸端から水音がしたので、急いで振り向いた。

そこではおかねさんが盥に水を汲み、顔を洗っていた。彼女は手拭いで水気を払って振り向く。それは昨日の朝と同じ笑い顔だった。

「おはよう。お前さんも使うかい?」

俺は一瞬、時が逆戻りしたのではないかと感じた。でもすぐに、“彼女は昨日知れたことにもう触れてほしくなくて、普段を装ったのか”とわかった。

「はい、そうします」


その時、俺の耳元で誰かがこう囁いた。

“これじゃあ、そっくりさんの立場を利用して想いを打ち明けるわけにもいかないな?”

うるさい。

俺はその囁きを押しのけ、彼女と井戸端ですれ違った。盥の中に満ちた水には、とても彼女に似合うとは思えないような、うすぼやけた顔の男が映った。