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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(21)〜(28)

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いつも通り、俺は土間に近い畳にお膳を置き、おかねさんとは離れて晩ごはんを食べた。彼女の様子を窺うと、仏頂面で次々お米を口に運んで下を向いていたけど、彼女は一度も俺を見なかった。

夕食のあとでおかねさんは湯屋に行ったし、俺もついていった。そして家まで帰ってきて俺は後ろ手に扉を閉め、まだ迷いながらも、おかねさんに声を掛ける。

「おかねさん」

「なんだい」

おかねさんは煙草盆から煙管を取り上げ、刻みの葉を取り出して詰めようとしていたところだった。俺は急に唇の渇きが気になって、舌でいくらか湿す。そして、喉が震えそうになるほどの緊張を抱えながらも、彼女が振り返らないうちにこう言った。

「私はそんなに、“あの方”に似ているのですか」

その途端、おかねさんの頭から首筋、爪先に至るまでが、ぴたっと止まった。俺の背中には、ざばっと水を浴びせるような震えが走る。

俺は、胸を苛み始めた後悔の間で返事を待った。今におかねさんが怒鳴り散らして、煙管を俺にぶっつけるんじゃないかとまで思った。

そして、煙管を持ったまま宙に浮いていた腕をおかねさんがようやく動かすと、彼女は火鉢の前にかがみ込んで煙草に火をつけ、煙を向こう側へと吐く。

俺は、おかねさんの亡くした恋人に、似ているのだ。だから彼女はあの時、俺をその人と見間違えて大喜びしてしまい、そして、やっぱり俺だったことに失望させられたから、悲しんだような顔をしたのだろう。

「教えてください」

“俺は、亡くなった恋人の代わりにされているのですか”

しばらくおかねさんはぼんやりとうつむくように煙草を吸っていたけど、やがてこう言った。

「そうさ。あんまりそっくりだよ」